メッセージ欄
2011年3月の日記
▼ 【第五話】ガブリエル寮の食卓
2011/03/14 0:10 【五話】
- さかのぼって学生時代のお話。
- 「姫」と呼ばれていたレオン、ディフと呼ばれる前のディフ、そして愛らしい美少年だったヒウェル。
- 聖アーシェラ高校男子寮、ガブリエル寮。優雅に一人暮らしを満喫していたはずのレオンハルト・ローゼンベルクの元に不意に転がり込んできた一年生。
- 態度もでかいし図体も声もでかい。とにかくがさつで大ざっぱ。
- 一時預かりだからと寮長に頼み込まれ、しぶしぶ引き受ける。後に彼こそが、最愛の『運命の人』となることも知らずに……。
記事リスト
- 【5-0】登場人物 (2011-03-14)
- 【5-1】入学前夜 (2011-03-14)
- 【5-2】お前はレオン、俺はディフ (2011-06-13)
- 【5-3】Tea for Two (2011-11-12)
- 【5-4】風邪引きマクラウド (2012-02-18)
- 【5-5】俺のクマどこ? (2012-07-17)
- 【5-6】ハロウィンGO!GO! (2012-10-30)
▼ 【5-0】登場人物
2011/03/14 0:11 【五話】
【ディフォレスト・マクラウド/Deforest-Macleod】
通称ディフ、もしくはマックス。
家族からはディーと呼ばれていた。
聖アーシェラ高校一年。
テキサス出身。父親の七光りから自立すべく、サンフランシスコの高校を選んだ。
ゆるくウェーブのかかった赤毛、ヘーゼルブラウンの瞳、鼻と頬の周辺にそばかす。
裏表のない直情家、世話好きでおせっかいな熱血漢、時々天然。
学生寮でレオンと運命的な出会いをする。
【レオンハルト・ローゼンベルク/Leonhard-Rosenberg】
通称レオン。
聖アーシェラ高校二年。ロスの実家を離れて学生寮で暮らしている。
ライトブラウンの髪と瞳、ほっそりと華奢な体格、整った顔立ち。
人との接触を好まず滅多に笑わない。
その冴えた美貌と遺伝子レベルで組み込まれた高貴さ故に秘かに「姫」と呼ばれている。
寮の二人部屋を一人で使っていたが、あぶれた一年生を引き受ける羽目に陥る。
【ヒウェル・メイリール/Hywel-Maelwys】
サンフランシスコ出身、聖アーシェラ高校一年。
さらさらの黒髪にくりっとしたアンバーアイ、細身で愛らしい子リスのような美少年。
ディフのクラスメートで、最初に彼を「ディフ」と呼び始めた。
五才の歳に両親と死に別れ、里親の元で育てられている。
その愛くるしい外見と人当たりの良さ故に上級生に人気がある。
カニが怖い。
【結城羊子/ゆうき ようこ】
日本出身の留学生、聖アーシェラ高校一年。
通称ヨーコ。
小柄でほっそりぺったん、ほとんど小学生と言っても通りそうな外見だが、れっきとした高校生。
強気で勝ち気で歯に衣着せぬ男前女子。
物事の本質を鋭く見抜く、ヒウェルの天敵。
そのコンパクトなボディに反してものすごく食べる。とにかく食べる。
次へ→【5-1】入学前夜
▼ 【5-1】入学前夜
2011/03/14 0:13 【五話】
サンフランシスコは桜の町だ。町の至るところに桜が植えられ、四月の第二週からはジャパン・タウンで桜祭りが始まる。
濃いピンクのつぼみが花開き、徐々に白く変わり、最後は雪のひとひらのように宙に舞い、地に落ちる。その儚いひと時に、ここぞとばかりに町中が賑わい、浮かれ、沸き立ち踊る。
桜色を目にすると自然と心が浮き立ち、足取りが軽くなる。
スーパーのチラシにプリントされた桜。街灯にくくりつけられたプラスチックの造花。そして、地面に植えられた本物の木。
通りすがりにふと、足を止めて見上げてみる。
何てタイミングだ。
くるくる回る花びらが、ぺとっと顔に貼り付いた。指でつまんでしみじみと眺める。ハートを引き伸ばした形の、白に近い薄いピンク色。ちっぽけな花びらが記憶の鍵穴にぴたりとはまり、過去につながる扉を開く。
桜が咲くたび、思い出す。きっとこの先、何度も、何年も――。
あの日から全てが始まった。
※
1995年4月、テキサス州、ベルトン。
卒業を二ヶ月後に控えたある日の放課後。中学の中庭に寝ころんで、満開の桜を見上げてた。
まるで天と地がひっくり返って逆さになって、桜が散っているのか、昇っているのかわからなくなる。青い空に吸い込まれそうな気分になった。
心はとっくに決まってる。先生とも相談した。後は家族にいつ、どんな風に伝えるか、だ。
別に隠してるつもりじゃない。
タイミングが掴めないってだけで。
ひらっと落ちてきた花びらが、ぺとりと鼻に貼り付いた。
「ぶえっくしっ」
派手なクシャミひとつ。脳みそがいい感じにシェイクされ、あっちこっちにぶわぶわ飛んでた考えがすーっと一つにまとまった……ような気がした。
(ええい、ぐだぐだしてても、何も始まんねえや!)
むくっと起き上がったら、花びらがぱらぱらと足下に落ちた。西の空がいつの間にか真っ赤だ。けっこう長い間、ここに居たんだな。
※
その日、夕食の席でダンカン・マクラウド署長は何気なく次男に言った。
「ディー。お前、進学先は決めたのか?」
口いっぱいにほお張ったミートローフをごっくん、と飲み下すと、赤毛の次男はまばたきを一回。しかる後、はっきりと答えた。
「うん、聖アーシェラ高校」
「……聞かない名だな。どこの学校だ」
「サンフランシスコ」
つかの間、食卓を静寂が覆う。署長も長男もひと言も喋らず、ただマクラウド夫人が小さな声で「まぁ」と言っただけ。
「先生にも相談した。OKもらった。州外からの学生も受け入れてくれるとこだし、寮もある」
「……そうか」
署長がうなずく。それを合図に、一時停止していた夕食は何事もなかったように再開された。
しかしながら。食事が終わり、夫人の手作りのチェリーパイを心ゆくまで賞味して後、彼は眉一つ動かさずに息子に問いかけたのだ。
「理由を聞こう」
間髪入れず赤毛の次男坊が答える。
「俺、警察官になりたいんだ」
「だったら地元の高校でも問題ないだろう」
「ある。ここに居る限り、どこに行っても俺はマクラウド署長の息子だ」
声には張りがあり、まっすぐ見返すヘーゼルブラウンの瞳には迷いの欠片もない。ただ感情が昂ぶっているのは確かなようだ。ほお骨の辺りが赤く染まり、顔に散ったそばかすがいつもよりくっきり浮かび上がっている。
何より瞳の中央にちろちろと、緑色の炎が踊っている。
「だから他の州で警官になる。だったら、早いうちからその土地に馴染んでおいた方がいい」
「……なるほど。一理あるな」
「家族は愛してる。でも確かめたいんだ。自分一人で何ができるか」
わずかに言いよどんだのは、最初のうちだけ。後はもう淀みなくすらすらと言葉が出ている。堂々とした口調で、力がこもっていた。昨日今日考えついた、薄っぺらな計画ではないようだ。
何度もかみ砕き、長い年月をかけて練り上げてきたのだろう。
くいっと食後の紅茶を飲み干すと、署長は今やすっかり緑色に染まった息子の瞳を見返し、厳かに告げた。
「良かろう。だが覚悟を決めた以上、途中で投げ出すな。いいな、ディー」
「うんっ! ありがとう、父さん」
途端に満面の笑みが花開く。一気に緊張がほどけたのだろう。
(よかった……)
ほっと安堵の息をつくと、マクラウド夫人は二切れ目のチェリーパイを息子の皿に乗せた。
ディーもダンカンも頑固な所はそっくり。意地の張り合いになったらどうしよう、と内心冷や冷やしていた。でも結局は警察官を目指すあたり、ディーも父親を慕い、尊敬しているのだ。
彼も、ちゃんとそれがわかってる。だから許可したのだろう。相変わらず堅苦しい、厳しい言い方だったけれど。
(嬉しいのね、ダンカン。可愛い人……。それにしてもサンフランシスコだなんて! 何でわざわざ、そんな遠い場所を選んだのかしら?)
「ディー」
「なに」
「何で、サンフランシスコなんだ?」
長男も同じことを考えていたらしい。兄弟同士、やはり親より距離が近い。気にしていたことを、するっと聞いてくれた。
「んー、海辺の街だから」
「それだけかよ」
「まだある」
ずいっとマクラウド家の次男、ディフォレストは胸を張り、得意げに言いきった。
「SFPDの制服って、すげえかっこいいんだぜ!」
「………」
やれやれ。
マクラウド署長は小さくため息をつき、こめかみを押さえた。
少し、早まったかも知れない。
※
季節は流れ、桜の咲く4月から若葉の芽吹く5月を経て、巣立ちの6月に。そして輝きの7月と8月――長い、長い夏休みが始まった。
無事に中学校の卒業式を終えてから、ディーはせっせと荷造りに精を出していた。着替えやお気に入りの本、靴、文房具。働きバチのように動き回り、見知らぬ土地で学校生活を送るのに必要なものを、せっせと箱に詰めこんだ。
フォトフレームに収めた家族の写真に続き、ベッドの上の茶色いクマに手を伸ばす。
ごく自然に手にとって、ふと動きが止まった。
テディベア、テディベア、黒いつぶらなボタンの目、ジョイントで繋がったがっしりした手足がぐりぐり動く。ばんざいするのも、ハグも、握手も自由自在。
ディー坊やが生まれた時に、おじいちゃんがプレゼントしてくれた、大事なクマのぬいぐるみ。片方耳が取れていて、茶色い毛皮も今は色あせ、ほとんどカフェオレみたいな薄茶色になっている。
ずうっと一緒だった。無くした時は、必死になって家中探した。
「っと……」
ちらりと箱の中味を見る。
結局、元通りベッドの上に戻した。
そうだ、まだ時間はある。いざとなったら、サンフランシスコに発つ時に、カバンに入れて持って行けばいい。
今送るのは重たいもの。
かさばるもの。
「……そうだ」
立ち上がり、廊下に出る。とことこと階段を降りて、台所に向かった。
コーンミールと小麦粉の割合は1対1、ベーキングパウダーとバターと粉チーズ、メープルシロップと玉子に牛乳を加え、塩をぱらっと振って、木ベラでざっと混ぜる。
「母さん」
マクラウド夫人は手を止め、顔を上げた。
「どうしたの、ディー」
「あ、コーンブレッド作ってるの?」
目をきらきらさせて手元をのぞきこんで来る。
「ええ、そうよ」
「手伝う」
四角い型にいそいそとバターを塗っている。小さい頃から、この子は料理ができ上がるまで、じっとのぞきこんでいた。
見ているうちに、手順を覚えてしまったのだろう。自分の好物は特に。
パンケーキにコーンブレッド、コーンスープ、ミートローフにアップルパイ、そして忘れちゃいけない、スクランブルエッグ。
型に種を流し込み、とん、とん、と揺すって空気を抜く。仕上げに上にもコーンミールを振って、余熱の終ったオーブンに入れる。
後は焼き上がるのを待つばかり。
「ありがとう、助かったわ! それで、何か用事があったんじゃないの、ディー?」
「あ、うん、そうだ。母さん、鍋貸して?」
「え、お鍋?」
「うん。あの俺がちっちゃい頃、スープ煮るのに使ってたオレンジ色のやつ」
「ああ……あれね」
下の棚を開けてとり出したのは、どっしりした鋳物のホウロウびきの鍋。マクラウド家の台所で一番最初の、一番古い鍋だった。
結婚のプレゼントでもらって以来、新婚家庭の食卓を豊かにしてくれた。ことこととスープを煮て、シチューを煮て。肉も魚も、キャベツもジャガイモも。
息子たちが生まれてからは、ベビーフードを作るのに大活躍。
今でも、ちょっとジャム煮たり、玉子を茹でるのに使っていた。
「はい、これ。どうするの? 何か作りたいものでもあるの?」
「うん。でも今すぐじゃない。サンフランシスコに持って行きたいんだ。学校の寮に、キッチンついてるから。ちちゃい流しと電熱式のコンロ一台と、冷蔵庫一つのままごとみてーなコンパクトな奴だけど」
ああ、何となくそんな予感がしていた。
「いいの? もっと新しいお鍋もあるわよ?」
「いいんだ。これが、いい」
にっこり笑って、ぺたぺたと鍋をなでている。
「こいつがあれば、いろいろ作れる。きっと楽しい」
「……そうね。あなたがそうしたいのなら。持ってお行きなさい」
「サンクス!」
部屋に戻ると、ディーはオレンジ色の鋳物の鍋を、しっかりと新聞紙で包んだ。さらにエアーキャップで包んで、箱の一番下に入れた。
さあ、必要なものは全部入れた。フタを閉めて、ダクトテープで念入りに封をした。
後は発送するだけだ。箱を抱えて、廊下に出て階段を下りる途中で呼び止められた。
「ディー!」
「何、兄貴?」
「忘れもんだぞ」
兄の手には、茶色のクマが握られていた。
「これがなきゃ眠れないだろ?」
兄貴の奴、確信してるんだ! このクマ、当然サンフランシスコに持って行くんだろうって。
むっと口をヘの字に曲げると、ディーはきっぱりと答えた。
「それは、ここに置いて行く」
「え? マジか?」
「うん。もう高校生になるんだから、自立する」
「……無理すんなよ」
「してない」
「そーかよ」
振り向きもせずにだかだかと階段を降りて、そのまま荷物を出しに行った。
※
8月の終わり、出発の日。
身の回りの品を詰めたバッグを肩にかけて、ディフォレスト・マクラウドは住み慣れた部屋を出た。
最後に戸口で振り返る。
やけにがらん、として見えた。
それほど沢山の荷物をシスコに送った訳じゃない。ただ、よく使う物が。今まで常に身近に出してあった物が、きれいに消えている。ベッドの枕元にちょこんと座った茶色いクマ以外は。
「……行ってくる」
お別れじゃない。ここは自分の家だから。帰ってくる場所だから。
ドアが閉まる。
さんさんと日の光の差しこむ部屋には、クマが一匹残されていた。
※
聖アーシェラとはSancta Ursula――「小さな熊」を意味する。
(入学前夜/了)
次へ→【5-2】お前はレオン、俺はディフ
▼ hとOともう一匹
2011/03/14 0:14 【短編】
- 拍手御礼短編の再録。
- エリックがレオンに呼び出された後、ヒウェルとオティアの間でこんなやり取りがありました。
- 実際にはトレンタサイズが出るのは2011年の春なんですが、ネタと言うことで。
「スヴェンソンくん」
食後の紅茶を飲み終わったところで、レオンが眼鏡バイキングに声をかけた。
「ちょっと来てくれるかな。話したいことがあるんだ」
「わかりました」
うわ、とうとう来たか、書斎への呼び出し。軽く十字を切って見送りつつ、隣の部屋に向かう。
前を歩く、オティアの後をついて行く。この頃、夕食の後にしばらく彼の部屋で一緒にすごすのが日課になりつつある。
と言っても特に何をするでもない。居間に座ってぽつりぽつりと言葉を交わす程度だ。
オティアの部屋のインテリアは、おしなべて丈が低く、床に敷いたラグは上質で肌触りのいいものが揃っている。
それと言うもの、こいつが床の上でころんころん転がってるからだ。本を読むのも、パソコンを使うのも、床の上。寝ころんだり、ヨガをやる時みたいにあぐらをかいたり。
よくぞそこまで足が開くと感心する。関節が柔らかいんだろうな。
そして今、丈の低いソファの上に足を組んで座るオティアの膝の上には、白いお猫さまが丸くなっていらっしゃる。
俺が部屋にいる時の定位置だ。青い目を光らせ、じっとにらんでいる。
俺を。
ちょっと動くと、針みたいな視線が追いかけてくる。
「お前、ほんとに猫に嫌われてるな」
「言うな。それほど嫌われてもいないと思うんだ!」
子猫の時分に、バスケットに入れて。はるばるエドワーズ古書店からこの家にお連れしたのは、他ならぬこの俺なんだ。留守番してる時は、飯もやってるし。トイレも掃除してるし!
何よりそのキャットタワーは誰が贈ったものだとお思いか。
「なー。オーレさんや?」
精一杯、清らかな笑顔を浮かべて手を出す。電光石火、べしっとひっぱたかれた。見事な手さばきだ。白い残像しか見えなかった。
一拍置いて、手の甲にちっちゃな引っかき傷が浮かぶ。
「………いたひ」
「当たり前だ。バカ」
「バカってゆーな」
でも、嬉しい。俺を見てくれる。ちゃんと会話してくれる。何より部屋に来ても追い出さない。
座って、一緒に居てくれる。
「お前、ヤニくさいんだよ」
「歯磨きしたし、消臭剤だってちゃんと吹いてるぞ!」
「動物にごまかしなんか効かねーよ」
「厳しいな……」
オーレはもわもわに膨らんで俺をにらんでる。ほっそりした体が1.5倍になってる。長い尻尾は鞭のようにしなり、ひゅんひゅんと空を切り――さっきからずーっと俺を叩いてる。ぴしり、ぱしりと、容赦無く。
所詮は猫の尻尾、痛くも痒くもないけれど。
「どーして俺にだけ攻撃的なのかな、このお姫さまは」
「にーう」
「目つき悪ぃよ、お前」
「そう言うこと言うからだろう」
「……あ」
口は災いのもと。
しばし沈黙を置いてから、それとなく口にしてみる。今日、二人きりになったら言おうとしていたことを。
「その……そろそろ切れそうなんだ、アレ」
「ああ」
アレと言うのはデカフェのコーヒー豆のことだ。煮詰まるようなコーヒーをがぶ飲みし、カフェインの過剰摂取を続けるのは体に良くない、と、二ヶ月前からオティアが差し入れしてくれている。
一週間ばかり前に、初めてその事実を知らされた時は、顎がかっくん、と落ちたね。
二ヶ月も、カフェイン抜きのコーヒーを飲んでたのか! って。恐ろしいことに、ちゃんと効いてたあたりが我ながら情けない。
「カフェインがなきゃ、絶対、毎日成り立たないって思ってたんだよな。でもコーヒー飲めれば満足してるし……ってか香りだけでもかなりしゃん、とする」
「末期だな」
「はい、末期です。カフェ中です」
絶妙のタイミングで、オーレがふんっと鼻を鳴らした。顎をくいっと上げて、鼻先で笑ったみたいに。こいつ、絶対わかってやってるな?
「あー、新しくスタバのサイズが増えたの知ってるか?」
「ああ」
「ヴェンティのさらに上、トレンタってーの。ワインボトル一本分、余裕で入るらしいぜ? あれ、いいよな! おかわりの手間が省けて」
「阿呆か。冷めるだろ」
「えー、電子レンジがあるじゃん」
じっとーっとにらまれた。斜め上方四十五度に、上目遣いで。
「劣化が気にならないなら、インスタントでも飲んどけ」
「えー」
「お前、コーヒーの善し悪しなんかわかっちゃいないんだろ」
「そんなこと、無いと……思うなあ……………タブン」
しとろもどろに話してる間に、ちっちゃな引っかき傷は跡形もなく消えていた。
※
次の日、オティアが俺の部屋に来た。
「お、どうした?」
つかつかと部屋に入り、テーブルの上にどんっと。1500mlサイズのコーラと見まごうような特大の、インスタントコーヒーの瓶が乗せられた。
ラベルにはでかでかと「カフェインレス」の文字が。
やりやがった!
「いや、確かにこれもデカフェだけど」
オティアはかっぽん、と赤い蓋を開けると中味をさらさらとマグカップに入れた。お湯を注いで、かきまぜて、どんっと目の前に置いた。
「飲め」
「……はい」
ずぞー、と一口。うん、味も香りも確かにコーヒー豆だよ。ちゃんとコーヒー豆から作ってるし、チコリとかタンポポに比べりゃはるかにコーヒーなんだけど。
うえええ、と口が歪む。
決定的な何かが欠けてるのが、ありありと分かっちまう。
すさまじく……味気ねえ………。
即座に俺は白旗を振った。
がばっとテーブルに手をつき、頭を下げる。
「ごめんなさい。私が悪うございました」
「……ふん」
かさり、と軽い音がする。顔を上げると、どでかいインスタントコーヒーの瓶の隣に、見慣れた袋が置かれていた。
いつものデカフェだ。ちゃんと、用意しててくれたんだ!
「ありがとうっ」
やっぱ優しいよお前。ちくしょう、可愛い奴め!
で、その後インスタントはどうしたかっつーと……飲んでます。時間ないときに。
真性のカフェ中は、コーヒーの匂いと味と色さえついてりゃ何でもいいんです。せっぱ詰まってる時は。
(hとOともう一匹/了)
次へ→すやすや
▼ 留学前夜
2011/03/21 0:09 【短編】
- 拍手お礼用短編の再録。アメリカへの留学が決まった結城羊子さん(16)と従弟の朔也ちゃん(13)。
- うれしい、でも寂しい。だけど一番寂しがっているのは………。
1995年、6月。日本、綾河岸市。
少女が駆けていた。こんもり繁った木々の間を、長い黒髪をなびかせて。
身につけているのは夏用のセーラー服。白い木綿にブルーグレイのえり、スカートは同色のプリーツスカート。えりとスカートの裾にはそれぞれ白いラインが入っている。
頬を紅潮させ、藍色のタイを揺らし、軽々と神社の石段を駆け登る。
大鳥居の前で足を止め、きちっと本殿に向かって一礼。ついでに鳥居の柱に手をついて、くるっと一回転。サイドに流した前髪を留める紺色のバレッタが、木漏れ日を反射して光る。透明なマニキュアで手描きされた猫のニクキュウが、一瞬ぽわっと浮かんだ。
校則で許された範囲の、ささやかなお洒落。
「ふふっ」
結城羊子は今、めずらしくはしゃいでいた。
スキップしそうな勢いで、社務所兼自宅までまっしぐら。勢い良く玄関を開け放ち、ぴょいっと飛び込んだ。
「ただいまーっ!」
静寂が答える。
「……あれ?」
家の中が静まり返っていた。珍しいこともあるものだ。いつもこの時間なら、母か伯母の桜子か、どちらか片方が……場合によっては両方が、迎えに出ているはずなのに。
そう、玄関の戸を開けるより早く。
首をかしげつつ居間に入って行くと、久しぶりにガラス戸が開け放たれ、ぶーんと扇風機が回っている。
そして縁側には、父が座っていた。白衣に浅葱の袴の宮司装束で、膝の上に猫を乗せて。三匹いるうちの一匹、頭のてっぺんから丸いしっぽの先まで全身真っ黒な猫。名を『おはぎ』と言う。
こっちを見上げて、かぱっとピンクの口を開けて一声、「んなー」っと鳴いた。同時に父が顔をあげる。
「……ただ今」
「おかえり」
「母さんと、おばさんは?」
「風見先生と芝居見に行った」
あー、そう言えば出がけにそんな話をしてたような気がする。
無論、この「風見先生」は剣術指南の紫狼先生ではない。お茶の先生、すなわち奥方の雪子さんだ。
「あれ、でも午後からじゃなかったっけ?」
「ついでに綾河岸グランドホテルで、懐石ランチをご一緒するそうだ」
言われてみれば朝、何となくそんな話を聞いたような記憶がないでもない。
そう、結城羊子は彼女としては極めて珍しいことに、今朝は上の空だったのだ。
こうしている場合じゃない。母も伯母もいないと言うことは。
「じゃ、お昼作るから待っててね」
「うむ」
鞄を居間の片隅に置き、ペン立てにささっていたかんざしを取ってくるっとひと巻き。髪の毛をアップに結い上げる。
いそいそとエプロンを身につけ、台所へ。
よく晴れた日だった。空気はじっとりと蒸し、濡れた若葉の彼方では、既に気の早い蝉がせわしなく鳴いている。
「さっぱりしたものがいいよね……」
台所のテーブルの上に、平べったい木箱が置いてある。
素麺だ。早くもお中元で届いたらしい。
「なーんだ、母さんたち、ちゃんと準備しててくれたんだ」
しゃらり、と木製のビーズの触れあう音がした。
振り向くと、従弟の朔也がのれんを潜り、入ってきた所だった。白い半袖のカッターシャツに黒のズボンの制服姿。学校から帰ってまっすぐ母屋に来たようだ。
ちらっと素麺の箱を見て、黙って冷蔵庫を開けた。麦茶のポットの隣、黄色いキャップの冷水ポットを取り出す。でかでかと貼られたラベルには、達筆な毛筆書きで「めんつゆ」と記されていた。
前もって、こんぶとかつお節、干し椎茸でだしを取っておいた自家製だ。
OK、つゆの心配はない。
後はひたすら茹でるだけ。
寸胴鍋に大量の水を入れ、コンロにかける。湯が沸くまでの間に、朔也はとんとんとネギを刻みはじめた。
一方で羊子はめんつゆをほんの少しボウルに注ぎ、玉子を三つ割り入れる。
二人ともほとんどしゃべらず、さくさくと静かに手を動かした。
きゅうりを細切りにして、ミョウガとしょうがを千切りに。ミョウガは父専用。薬味の準備が終わり、玉子が焼き上がったところで、ぐらぐらと寸胴鍋から泡が噴き上がる
二人はどちらからともなく素麺の箱に手をのばし、ぺりぺりと袋を開けた。小分けにされた束を、一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、もう一つ。
次々に放り込む。ほぐれたところを羊子が菜箸でざっと混ぜ、朔也はざるのを準備に取りかかった。
素麺がくたくたになり、透明になった頃合いを見計らって火を消す。
「サクヤちゃん、お父さん呼んできて」
「わかった」
ここからはお父さんの仕事。
きりっとたすき掛けをした宮司が両手に鍋つみをはめ、重たい寸胴鍋をもちあげる。慎重に流しに運び、おもむろに、巨大な竹のざるにざあっとあけた。
すかさず羊子が蛇口を捻って水を出す。
もうもうと白い水蒸気が立ち上る。
「おつかれさまでした」
「うむ」
おごそかに頷くと、父は再び居間に戻って行った。
きりっと水で冷やした素麺と薬味三種、薄切りにしただし巻き玉子が三人分。つゆは醤油味、素麺の上に細切りのキュウリを散らす。フルーツの缶詰めは浮かべない方向で。
二人で手分けしてお盆に乗せ、居間の座卓に運ぶ。縁側には既に猫三匹が待機していた。だんご尻尾の黒猫「おはぎ」、白に点茶模様の「みつまめ」、そして白に黒いぶちの「いそべ」
猫用のお皿にドライフードを盛り、水を注ぐと、並んで食べ始めた。
人間三名もそれぞれ卓につき、きちっと手を合わせる。
「たなつものもものきぐさも あまてらす ひのおおかみの めぐみえてこそ」
「いただきます」
「いただきます」
三匹の猫がドライフードをカリカリかじる音。人間が静かに素麺をすする音が響く。父も、朔也も、ほとんどしゃべらない。
言い出しにくい。でも、報告しなくちゃ。お父さんだって、本当は私が帰ってきた時からずっと、結果を聞きたくて仕方なかったはずなんだから。
こくっと口の中の素麺を飲み込む。
腹をくくれ、羊子!
「あのね……」
ハシが止まる。父も。朔也も、二人そろって。
「留学、決まった。九月からアメリカに行く」
朔也が小さくうなずく。
「そっか。おめでと」
「うん、ありがと……」
「アメリカのどこだっけ?」
「サンフランシスコ」
「とおいね」
「うん。飛行機で11時間かかる」
何もかも知っていたかのような口ぶりだった。
多分、この子は気付いていたはずだ。自分が神社の境内に入ったその瞬間から、胸がふくらみぱちんと弾けそうなほどの喜びに。
小さい頃からそうだった。まるで見えない糸電話で繋がっているように、強い感情の動きをお互いに感じることができた。
片方が泣けばもう片方も泣く。一人が笑えば、もう一人も笑う。
だからこそ、朔也がいじめられた時は超特急ですっ飛んでいって、いじめっ子を打ちのめすことができたのだ。主に腕力ではなく、言葉と意志の力で。
今、サクヤはほとんど笑わないし、必要なこと以外は話さない。でも伝わってくる。
つるつると滑る狭い螺旋階段を登っている途中で、不意に手すりを失ったような不安が……。
だが表面上は静かに食事が進む。黙々と素麺をすする音だけが聞こえる。
父はひと言も喋らない。
「……ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
食後のお茶をすすっていると、急に父がすっくと立ち上った。ちょうど膝に乗ろうとしていたおはぎが支えを失い、不満げな声を挙げる。
「父さん、ちょっとでてくる」
「はい」
境内の見回りかな? そろそろ参拝客が増える頃だし。
※
朔也と二人、昼食の後片づけにとりかかる。お皿を洗っている間に、じりじりとした不安は冷たいあきらめと混じりあい、絡み合って意識の底に沈んだ。
きゅっと蛇口を閉める。
「一年間。一年間だけだから」
「大丈夫だよ」
「サクヤちゃん……」
「大丈夫」
「……」
(行っちゃいやだ、なんて言えない。言っちゃいけない)
(よーこちゃん、あんなに喜んでいたんだから。大丈夫って言わなきゃ。俺がしょげてたら、よーこちゃんが心配する。何もかも放り出して、飛んで来てしまう)
羊子はぎゅっと従弟を抱きしめ、頭を撫でた。
「大丈夫だって、言ってるのに」
「……うん」
静かに離れる。
ごめんね。
行かないで。
舌先まで浮かんだ言葉を、咽の奥に押し込めたまま。
「何て学校?」
「聖アーシェラ高校」
「女子高?」
「ずーっと昔はそうだったみたい」
「ふーん」
片づけを終え、いつものように『ぽち』におやつをあげに行こうと冷蔵庫を開けると……
「あれ?」
置いてあるはずのおやつ用に切ったリンゴが、ない。
お母さんたち忘れてっちゃったのかな。珍しい。
仕方がないので、もう一個切った。皮はむかない。洗えば十分。
「行こうか」
「うん」
こんもり繁る鎮守の森。本殿からさらに奥へと分け入ると、フェンスで囲まれた運動場と、ご神獣の厩舎がある。
結城神社は鹿島神宮の系列だ。従ってここに居るのは神馬ではなく、神鹿。
何故か代々『ぽち』と名付けられた鹿の世話は、現在は朔也と羊子に任されていた。
しかし、この日は先客が居た。
(あ)
(あ)
人の気配を感じて立ち止まる。宮司自らがしゃがみこみ、ぽちにリンゴを与えていた。
「ぽち……羊子がアメリカに留学するんだ。一年もいなくなっちゃうんだよ。寂しくなるなあ」
ぽちは尻尾をぴーんと立て、さくさくとリンゴを食べている。好物なのだ。
つややかな首筋を撫でながら、父は深い、深いため息をついた。
「なあ、ぽち。父さん心配なんだよ。あの子が、万が一、金髪で青い瞳の彼氏を連れて帰ってきたらどうしようって」
その瞬間、朔也と羊子は全く同じことを考えていた。
(ないない)
(ないない)
とつとつと語る主の言葉を――込められた心情を察したのだろうか。ぽちは、すりっと父の手に顔をすり寄せた。
「いい子だな、ぽち」
父は柔らかな黒い袋に覆われた角の付け根に手を伸ばし、こりこりとかいてやっている。
ぽちは気持ちよさそうに目を細め、後脚をぱたぱたと動かした。
(お父さん……)
(おじさん……)
サクヤはあえて見ないふり。羊子もあえて聞こえないふり
二人は足音をしのばせてその場を立ち去り、家に引き返したのだった。
「じゃ、俺、帰るから」
「うん、またね」
「うん」
朔也は居間に置いてあった鞄を持って、自分の家へ。一人残された羊子は余ったリンゴを冷蔵庫にしまい、自分の部屋に引き上げた。
「はぁ……」
着替える気にもなれず、タイだけ外してころんとベッドにひっくり返る。
他の部屋と同じく畳敷きの和室。だけど中学に上がった年に無理を言って、ベッドを入れたのだ。
鞄から留学のパンフレットを取り出し、うつぶせになって目を通す。九月から自分の通う学校の校舎と校庭、そして学生寮の写真……まだ実感がわかない。夢を見ているようだ。
「にゃー」
「おはぎ……みつまめ、いそべ」
猫が三匹、すりよってきた。座ると、我先に膝に乗って来る。
「重いよ、おはぎさん」
「みー」
父に比べてずっと小さな羊子の膝は、一匹で満員だ。出遅れたみつまめといそべはパンフレットのにおいを嗅ぎ、ぐしぐしと顔をこすりつけている。
しっとりした毛並みをなでながら、話しかけた。
「一年だけだから……」
「にう」
「この家は好きよ。神社のお勤めも。でもね、ここに居たら、私は結城神社のお嬢さんのままなの。生まれた時からずっとそうだった」
「み」
「神社から切り離された所で、ありのままの自分を試してみたいんだ。一年だけ。一年間だけでいいから」
「にゃー」
「んにゃっ」
「みーう」
「……ありがとう」
しっぽをぴーんと立てて震わせて、口をかぱっと開けて鳴く猫たちに囲まれていると……揺らぎかけた決心が、再びしっかりと地面に根を張り、ぴん、と伸びてゆくような心地がした。
黒と白茶と白黒。毛質も色も異なる猫たちの顎の下を。耳の付け根を。尻尾の根元。それぞれの一番のお気に入りの場所を、かわるがわる撫でた。
「サクヤちゃんと、お父さんをお願いね」
「みぃ」
(留学前夜/了)
次へ→hとOともう一匹
▼ 執事と眼鏡と愛妻と
2011/03/21 0:10 【短編】
6月のある土曜日。
夕食を終えてから、ローゼンベルク家の執事にして優秀なる秘書、アレックス・J・オーウェンは自宅でくつろいでいた。
今ごろは主であるレオンハルト・ローゼンベルクも家族に囲まれ、晩餐を終えている頃合いだろう。
彼の結婚以来、アレックスの務めは主に仕事上の業務に移行していた。しかし気持ちの上では以前と変わることなく仕えていた。
主一家は6階、自分たちは5階。階層の違いこそあるものの、同じマンションに住んでいて何かあったらすぐに駆けつける心構えで備えている。
強いて挙げるとしたら、アレックス自身も家庭を持ち、家族との時間をゆっくりと過ごす余裕が出てきたのが一番の変化であった。
そう、家族だ。
居間のソファに腰を降ろし、新聞を広げる。ところが困ったことにどうにもこう、文字に集中できない。
最近の印刷は質が落ちてきたのだろうか? 何度見直しても活字がにじんでいるように見える。眉をしかめ、じっと紙面に焦点を合わせる……読みづらいこと、この上ない。
じっとにらんでいるうちに目が乾いてきた。眼球の奥が強ばり、内側から外側に向けて圧迫される。痛みまでは行かないものの、むずむずする。重苦しい。
一旦目をそらし、眉の間を軽く抑えた。
どうやら、居間の照明もチラついているようだ。まだまだ十分な明るさがあるように見えるが、近いうちに取り換えた方が良さそうだ。
と、その時。
ぱたぱたと軽い足音が近づいてきた。
四才になる息子がやってきて、ソファによじ登る。隣に腰かけるときちっと背筋を伸ばし、まじめくさった顔でおもむろに絵本を開いた。
どうやら、自分のマネをしているようだ。
(おや)
可愛いな。
ほほ笑みつつ、紙面にそれとなく視線を戻す。
そのまましばらく新聞を読み続け、一区切りついた所で何気なくディーンの様子を横目でうかがってみて……
(なっ!)
アレックスはがく然とした。
ディーンが絵本を顔から離して読んでいたのだ! 首をくいっと後ろに反らし、眉間に皴をよせつつ目を細めて。
(何と言うことだ。私は、あんな風にして新聞を読んでいたのか……)
文字が読みづらいのは、印刷のにじみでも。電球の劣化のせいでもなかった。
まだまだ若いつもりでいても、四十三歳。老眼の兆しは否めない。
ため息をつくとアレックスは新聞を伏せた。
「ソフィア」
「どうしたの、アレックス?」
「どうも最近、細かい文字が見づらくてね。そろそろ私も、老眼鏡を作った方がいいのだろうか?」
この瞬間、有能執事は(実に珍しいことに)己の行動を悔やんだ。
老眼鏡(senior glass)。その単語を耳にするや否や、妻が目を輝かせ、ず、ず、ずいっとにじり寄ってきたからだ。
「そうね! あなたは特にお仕事で目を酷使するし」
胸の前できゅっと両手を組み、まるで乙女のようにきらきらと。星のように(しかも一等星)瞳を輝かせている。
困ったことに、その姿はあまりにも愛らしく、魅力的で……
逆らえなかった。
「そろそろ『手元用の眼鏡』があっても良いかもしれないわね!」
そうだ。何もいきなり『老眼鏡』が必要なのではない。自分に必要なのは、あくまで『手元用眼鏡』なのだ。細かい作業をしたり、小さな活字を読むための。そう考えるとほんの少し、気が楽になった。
「どんなフレームがいいだろうか……」
「そうね、そうね、明日はお休みだし、早速眼鏡屋さんに行きましょう?」
ああ、参ったな。まさかソフィアがこんなに喜ぶとは予想外だ。まるでデートに誘う時のような表情をしている。
「……そうだね、そうしようか」
※
翌日。朝食の席でソフィアはもう、そわそわしていた。
空を飛ぶような足取りで、バレリーナのようにくるくると掃除、洗濯をすませ、店の開く時間になると、いそいそと外出の仕度を始めた。
やれやれ。ランチのついでに、と思っていたのだが。これはもう、引き伸ばしている余地はなさそうだ。
「そろそろ、出かけようか」
「はいっ!」
上着を手にプリマドンナが飛んで来る。少々困ったような笑みをにじませつつ、有能執事は素直に袖を通した。
修理や調整で通うことを考えると、やはり職場にも家にも近い店がいいだろう。
考えていると、ソフィアがにっこりと一枚のチラシを広げた。
まさに、自分が考慮していた条件の店だった。下調べしておいたらしい。
「わかったよ、そこに行ってみようか」
訪れた眼鏡店で、アレックスは緊張しながら店員に告げた。
細かい文字が読みづらいので、手元を見る眼鏡が欲しいと。
店員は適度に控えめな笑みを浮かべ、「かしこまりました」と一言。
「今まで眼鏡をお使いになったことは?」
「いや、これが初めてです」
「では、まず視力の測定を行いますので、こちらへどうぞ」
検査は20分ほどで終った。
コイン式の双眼鏡のような装置をのぞき、縦横に交錯するのラインのどちらが濃いか尋ねられる。横だ、と答えると
「では縦のラインが濃く見えたらお知らせください」
縦が? 濃く? まさか、そんな事があるだろうか。
かしゃり、かしゃり、と機械の中に仕込まれたレンズが切り替わって行く。次第に縦横のラインの濃淡が変化し、ついには同じになる。
(おお?)
また、かしゃりとレンズが切り替わる音がした。縦がくっきり見えた。次の瞬間。
「はい、いかがですか?」
「……縦が濃く見えます」
測定の結果は、乱視が若干入っているとのこと。
さらに細かな調整の後、焦点を手元に合わせるためのレンズが処方された。
「では、フレームをお選びください」
紳士ものの眼鏡フレームは、アクセサリーさながらの婦人用に比べるとぐっと数が少ない。色も地味だ。それでも、けっこうな種類があった。
「……これはどうかな」
手近にあった銀縁のウェリントン型のフレームを手にとる。
ふむ、値段も予算内だし、適度に丈夫そうだ。とりあえず鼻に乗せてみた。
「いいえ。それは、あなたにはちょっときつ過ぎるわ」
きりっと表情を引き締めると、ソフィアはずらりと並んだフレームに視線を走らせた。まるで獲物を狙う狩人のように。
「これと、これと、それと……これ。あ、そこの茶色いのも素敵ね!」
鏡を見ている間に、また新しいのが運ばれてくる。
次々と眼鏡を試着する夫の横顔を、ソフィアはうっとり見つめていた。飽きることなく、熱心に。
「知らなかったな、君がそんなに眼鏡が好きだったとは」
わずかに苦笑しながら、アレックスは本日十七個目のフレームを顔に乗せた。
「あら……それは違うわ、アレックス。眼鏡じゃなくて『あなた』が好きなのよ」
その一言で有能執事は腹をくくった。
正直言ってこの時点では、100%眼鏡を買うつもりはなかった。これは下見、本番にそなえての予行演習。少なくとも50%はそんな認識でいた。
まだ自分は若い。
老眼鏡(シニア・グラス)の世話になるような年齢ではない、と。
しかし。今、目の前で頬を桜色に染め、活き活きつやつやとまるで少女のように自分を見つめる妻の姿を見てしまうと……。
眼鏡一つで、ここまで妻を喜ばせることができるのか、と思うと。
十八個めのフレームは、柔らかなラインのスクエア型。横に長く、視線を動かしてもレンズからはみ出さない。一方でわずかに前方に顔を傾ければ、視線は自ずとレンズの有効範囲から外れる。これなら遠くも見えるだろう。
何より軽く、しっくり顔に馴染む感じが心地よい。
「これは、どうだろう、ソフィア」
ソフィアはまじまじと鹿の子色の瞳で夫を見つめ、ぽんっと両手を打ち鳴らした。
「それだわ、アレックス!」
桜色の唇から、軽やかなさえずりがあふれ出す。
「上のラインがね、あなたの眉に沿っていてとも自然なカーブを描いているの! 色もいいわ。顔色に馴染んでいる。優しい色合いね」
「そ……そうかな」
「ええ、そうですとも!」
OK。ソフィアが気に入ったのはよくわかった。
だが念のため、もう一人。最も長い時間を一緒に過ごす人間の意見を聞いておこうではないか。
「ディーン。どう思う?」
息子はぱちぱちとまばたきして、腕組みして、しばらく考え込んでいた。
「かっこいい」
「そうか」
「パパは、それが一番かっこいい」
うなずくと、アレックスは注意深く顔から眼鏡を外し、傍らに控えていた店員の掲げるトレイに載せた。
「では、フレームはこれでお願いします」
「かしこまりました」
「加工にはどれほど時間がかかりますか?」
「そうですね、レンズに在庫がありますので……40分ほどでお渡しできるかと」
「そうですか、ありがとう」
眼鏡ができ上がるまで40分。さて、その間どうしようか?
そうだ、ここから歩いて行ける距離にYerba Buena Gardensがある。
「Zeumの回転木馬に乗りに行こうか」
たちまち、ディーンとソフィアは顔を輝かせた。
「ええ!」
※
幸い、去年のクリスマスに、レオン様からいただいた年間パスポートがある。白いヒゲの子ヤギ、ほぼ実物の馬と同じ大きさの馬、小さな子ども用の馬、そして馬車、キリン、鹿。
乗り換え取り換え飽きることなく乗り回し、降りた頃にはさすがに三人とも少し足下がふらついていた。
アイスクリームスタンドで小休止してから、再び眼鏡屋に戻ると……
「お待ちしておりました、オーウェン様」
厳かにベルベット張りのトレイに載せられて、仕上がったばかりの老眼鏡が出てきた。おそるおそる両手でつるを持ち、左右に開いて、顔に乗せる。
ふむ……
段差を踏み抜いた時にも似た、軽い眩暈を感じた。
深く呼吸し、目を閉じて、もう一度開く。
さして、変化はないようだが……
「いかがでしょう?」
さし出された新聞を目にした瞬間、アレックスは思わず
「おお」
と感嘆の声を漏らしていた。
何と言うことだ。文字がにじみもせず、ぼやけもせず、はっきりと読める。眉根に皴も寄せず、目を細めることなく、楽々と読み進める。
「下を向いてみて、ずれたり下がったりする感じはありませんか?」
「いえ、大丈夫です」
眼鏡を外す。遠くは見えるが近くは雨粒が貼り付いたようににじんでいる。
ああ。
まちがいない。
老眼だ。
小さくため息をつき、手の中の眼鏡に視線を落とす。
「……これに合うストラップはありますか?」
「はい、こちらにございます」
今更ながら思い出す。そういえば父親も、自分と同じぐらいの年齢で老眼鏡をかけはじめていたな、と。
(老眼、か……)
ストラップを選び、何気なく顔をあげると……
そこにはやはり、頬をつやつやさせてうっとりと見守る妻の姿があった。
この顔が見られるのなら、老眼も悪くないな、と思った。
※
その後、レストランで少し遅めのランチをとることにした。
メニューを読む時、試しに老眼鏡をかけてみる。
(おお)
これは、読みやすい。目をしかめることなく文字が読めると言うのは、実に快適だ。
そんな夫の姿を見て、ソフィアがおもむろに携帯を開いた。
「あなた、携帯の待受けにしたいから写真とらせて」
「わかった」
老眼鏡を外そうとすると、そ、と手首を抑えられてしまった。
「いえ、眼鏡は外さないで。むしろかけて!」
やれやれ。そんな顔して頼まれたら、Noと言える訳がない。
「……わかったよ」
「ありがとう!」
やや丸みを帯びたスクエア型、縁取りはやわらかな紅茶色。
まだ馴染みの薄い老眼鏡をかけ、アレックスはほほ笑むのだった。
ソフィアのために。
全ては愛しい妻のために。
illustrated by Kasuri
(執事と眼鏡と愛妻と/了)
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▼ うたた寝-オティアの場合
2011/03/21 0:10 【短編】
オティアは困惑していた。ひざの上の猫を抱えて、ほんの少しばかり。
向かいの席では、ヒウェルが一心不乱にノートパソコンを打っている。
夕食の時間より少し早めにふらりとやってきて
「悪ぃ、ちょっと時間詰まってるんだ、場所貸してくれ」
とか言ってカタカタやり出して。
食後の紅茶を飲んでからまたこっちに戻り、そのまま続きを始めた。
本宅の居間には珍しく早く帰ったレオンがいたから、それなりに気を使ったのだろうか? だったらおとなしく自分の部屋で仕事をすればいいだろうに。
まあいい。
それ自体は別に困ったことじゃない。ただ黙って向きあってるより気が紛れるし、こっちもこっちで好きなことができる。
これまでもこいつが仕事をしてるのを目にしたことはあった。だが、改めてこうして正面から見ると………
(『あれ』はまだ、本気じゃなかったんだな)
目が半分、虚ろになっている。画面全体を見ているからだろう。単に自分が今打ってる文字のみならず、その前の部分とのつながりをも確かめているのだ。何について書いているかはわからない。だが真剣なのは確かだ。
普段は居てもせいぜい1時間かそこらだ。それなのに今日は仕事を再開してから3時間、一言もしゃべらず打ち続けている。まばたきはおろか、呼吸も忘れてるんじゃないか?
と、思ったら今度はやにわに目を閉じて考え込み、微動だにしなくなった。
見ていても一向に動かないので、手元の本に視線を戻す。そのうちカタカタとキーをタイプする音が再開し、ああまた書いてるんだな、と気付く。
単調な音を聞いているうちに、眠くなってきた。
時計を確認する。
もう、薬を飲む時間だった。
台所に行き、ケースから今夜の分を取り出して水で流し込む。だいたい20分もすれば眠くなる。
居間からはカタカタと言う音がまだ聞こえてくる……
ヒウェルの意識はまだあっち側にトリップしたままらしい。
しかたがないのでソファに戻り、ほおづえをついて眺めた。
「みゃうぅん」
ひょい、とオーレが飛び乗ってきて足の間で丸くなる。
あったかいすべすべした毛並みを撫でているうちに、とろとろと眠気が押し寄せてきた……
※
「ふぅ……」
最後の1センテンスを打ち込むと、ヒウェルは大きく息を吐き、背筋をそらせた。
ぼき、みし、ぺき。
背骨が鳴る。
ゆっくりを首を左右に傾ける。
眼鏡を外してまぶたの上から目を押さえ、軽くマッサージしてから再びをかけ直す。
と。
(お?)
オティアがゆれていた。
ソファにすわったままひじ掛けにほおづえをつき、こっくりこっくりと舟を漕いでいる。
急にかくっと前にのめり、はたと目を開けた……半分だけ。
「オティア」
「………あ?」
紫の瞳はとろーんと霞み、微妙に焦点が合っていない。
極めてレアな状況だ! こいつがこんな表情してるなんて……しかも、俺の目の前で!
「眠い?」
「んー」
ほわほわと雲の中を泳ぐような動きで口を開いた。
「くすり、のんだ……ねる……」
しまった。もうそんな時間か!
時計を見ると、23時30分……ほんの30分のつもりが、3時間と30分経っていた。
(やばい、またタイムワープしちまった!)
いつもこうなのだ。原稿が佳境に入ると時間を飛び越えてしまう。
大事なこと、到底忘れるはずがないと信じているはずのことがすっぽり脳みそから抜け落ち、目の前の画面と指と頭以外の物体が消失する。
脳内に浮かぶ言葉を、指を通じてデジタルな紙面に打ち込む作業に没頭してしまう。
「そっか……おやすみ」
オティアはこてん、とソファに横になり、アンモナイトみたいにもそもそと体を丸めた。すかさず腕の中に白い毛皮がしゅるん、と流れ込む。一人と一匹はまるで一匹の生き物みたいに寄り添って、まんまるになって目を閉じた。
(くそっ、可愛すぎるぜっ)
感動にうちふるえて……いる場合じゃない。
「おいおい、こんなとこで寝るなよお前。ちゃんとベッドに行かないとっ」
「んー……」
聞いちゃいねえ! しかも、もふもふとオーレの毛皮に顔をうずめちまった。寒いのか、鼻先。
「しょうがねぇなあ……」
うたた寝の責任は自分にある。かくなる上は、ちゃんとベッドまでお連れするしかあるまい。そーっと手を伸ばして抱き上げようとした。が。
指先が触れるより早く、にゅっとオーレがかま首を持ち上げ、カッと牙を剥いた。耳が完全に後ろに寝ている。ものすごく目つきが悪い。
声は出ていない。だが、シャーっと咽の奥から威嚇の音が吹きつけられる。
「わかった、わかった……」
手のひらを立てて『降参』を示しっつ後ずさり。
…………まだこっち、にらんでるし。背中の毛、逆立ってるし。
美人が台無しだよ、オーレさんやい。
(しかたない)
足音をしのばせて寝室へ。
本人をお連れするのが無理ならば、毛布を持ってくるしかあるまい。ついでに枕元に置かれた青い時計に手を伸ばす。
忘れもしない去年の9月の誕生日、シスコ中探し回った揚げ句にようやくフリーマーケットで見つけた青い目覚まし時計。
(ずっと使ってくれてるんだな)
青い時計をテーブルに載せ、そっとオティアに毛布をかける。
うっすら目をあけてこっちを見ている。と思ったらもそもそと口を動かし、小さな小さな声でぽそり、とささやいてきた。ほとんど声になっていなかったけれど、幸い自分は唇が読めるし、耳もいい。
『Good night(おやすみ)』
「………ああ」
とろとろと微睡む姿を見守った。もう、一晩中このまま過ごしたいとさえ思ったが、自分がここにいる限りこいつは熟睡できないだろう。
静かに静かにノートパソコンを閉じて小脇にかかえ、明かりを落とす。
静かに静かにドアを開け、静かに静かに廊下を歩き、本宅に戻る。
と。
「よぉ、ヒウェル」
満面の笑みを浮かべた赤毛さんが腕組みして、どーんと仁王立ちして待っていた。
身振りでくいっとサイドテーブルを示す。
「あ、はい、置けってことですね」
ノートパソコンを置くやいなや、首筋にぶっとい腕が巻き付いてきた。
「今何時だと思ってる」
「23時35分」
「その時間まで、あの子の部屋に居座るとはどーゆー了見だ。あぁん?」
うーわー。笑顔だけど目が笑ってない。声もいつもより低くてドスが利いている。
まさしく地獄の番犬、なう。
「そ、それは、その……」
助けを求めてちらりと視線をさまよわせる。
牙を剥いた地獄の番犬の向こう側で、レオンが穏やかにほほ笑んでいた。
ぴしぃっと心臓が凍りつく。
一方で思考は分泌するアドレナリンによって加速され、急速にカチカチと音を立てて回り出す。
オティアが心配でディフがここに居る、と言うことは。必然的に彼が寝室に引き上げる時間が遅くなると言うことで。
イコール、夫婦二人っきりの時間も遅くなる。
結果。
レオンもご機嫌斜め。
ディフの手綱を押さえるつもりは、さらさらない、と。
瞬時に腹をくくり、ヒウエルは正直にありのままを自白した。
「仕事に夢中になってたら、時間の経過を忘れてまして」
「ほう」
「オティアが薬飲んだの、気付かなかっ……」
ヘッドロックが速やかにオクトパスホールドに組み直され、ぎちぎちぎちっと締め上げられる。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ」
ぱぱににらまれ、ままに技をかけられて、サイレンモードで平謝り。
全身の骨と言う骨をぎちぎち言わせながらも、ヒウェルは秘かに幸せだった。
(丸まってうとうとするオティアが可愛かった)
(俺におやすみって言ってくれた!)
illustrated by Kasuri
笑顔こそ引きつっていたものの、ひたひたと胸の内を満たす幸せに打ち震えていたのだった。
(うたた寝-オティアの場合/了)
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▼ コーンブレッドのレシピ
2011/03/21 0:12 【レシピ】
- ローゼンベルク家の夕食にたびたび登場する「コーンブレッド」。
- 本来は「コーンミール」と言うトウモロコシを粉にしたものを使いますが、ここでは日本でも比較的入手の簡単な「クリームコーンの缶詰め」を使ったレシピをご紹介します。
- 20cm四方、深さ5cmのスクエア型、ないし大きめのパウンドケーキ型一個分です。
- マフィン型でもできます。
※小さめのパウンドケーキ型2本でもOK。
- 長島亜希子さんの「私のアメリカ家庭料理」に掲載されていたレシピを参考に、やりやすいように、試しながらアレンジした作り方です。
【材料】
クリームコーンの缶詰め(今回はアヲハタのクリームコーン190g入りを使用)
小麦粉 計量カップで240CC分
ベーキングパウダー 小さじ4(もしくはベーキングパウダー小さじ2、食用重曹小さじ2)
塩 小さじ1/2
マーガリンないしバター少量
卵 1個
メープルシロップもしくはハチミツ(あれば)大さじ2
砂糖でも可。
【作り方】
1)オーブンを210度に熱しておく。パウンドケーキ型、マフィン型で焼く場合は170度。
2)型にうっすらとバターもしくはマーガリンを塗り、小麦粉(分量外)をふっておく。
3)材料全部をボールの中に入れ、ヘラでさっくり。馴染んできたらハンドミキサーの高速モードで1分間混ぜる。
※生地が固すぎる時は水か牛乳を少量加える。
4)型に流し入れ、とん、と軽く叩いて空気を抜く。
5)オーブンに入れて20〜25分(スクエア型&マフィン型)。パウンドケーキ型の場合は40〜50分。
表面がきつね色になったら竹串で刺して、べとーっとした生地がついてこなければ出来上がり。
※べとべとする時は延長。焼き過ぎて固くならないように!
6)オーブンから出してあら熱をとる。型から外し、スクエア型とパウンドケーキ型はスライスしてお召し上がりください。
7)保存はすっかりさめてからラップかアルミホイルで包んで冷蔵庫へ。
※一度冷めたのを食べる時はレンジでチンするか、軽く蒸し器で蒸してからどうぞ。
うっかり古いベーキングパウダーを使うとぺしゃーっとしてふくらまず、悲しい結果になっちゃうので注意!