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ローゼンベルク家の食卓

家族の波

2011/11/26 1:04 短編十海
  • 2007年のローゼンベルク一家の日常。
  • 月梨さんのイラストを使い、絵本風にビジュアルノベル化したものをこちらで公開中。5分ほどの短い作品。(PCのみ)MacでもWindowsでも、ブラウザでお楽しみいただけます。
 
 家族にも波はある。
 
 映画になるほどドラマチック、とまでは行かなくても、毎日の暮らしの中で少しずつ。
 浮く日もあれば、沈む日もある。晴れる日もあれば雨の日も、風の強い日もある。
 別々の意志と別々の意識を持った人間が、ずっと一緒に生きているから。

 サンフランシスコに住むローゼンベルクさんの家は、愛情深い料理上手な『まま』と、愛妻家で厳しい『ぱぱ』、そして、ちょっと意地っ張りな双子の四人家族。白い猫を飼っていて、同じマンションの下の階に住んでる友だちがちょくちょく(と言うか毎日?)夕飯を食べに来る。

 毎週、水曜日の午後にままが双子を車に乗せて買い出しに行き、帰りにクリーニング屋に寄ってくる。
 そんなありふれた家族の食卓にも、やっぱり『波』がある。

 たとえば双子がちょっぴり沈んでいる時。
 夕方が近づくにつれて訳も無く心細くなったり、一人でいると水の下にすうっと引き込まれそうな気分になる時は、何となく食堂に行く。
 いつもは自分の部屋でやっている読書やホームスクーリングの宿題を、食卓でするのだ。

(ここにはいつでも、自分の座る場所がある)
(迎えてくれる場所がある)

 どっしりした大きなクルミ材のテーブルに座って、二人一緒に。するとそのうちままが帰って来て、夕食の支度を始める。時間がある時は、食卓に座って新聞を読んだり、料理の本を開いたり。何を話すと言う訳じゃないけれど、一緒にいる。

 ままの元気が無い時は、何となく双子がそばにいる。
 ままは一家を照らすお日さまだ。お日さまが陰れば家の中は暗く、冷えきってしまう。

 食卓に座って向き合って、ジャガイモの皮をむいたり、豆の殻をとったり、ギョウザを包んだり。ゆっくりゆっくり手間ひまかけて、いつもよりじっくり食事の支度をする。そうしうていつもよりほんの少し、一緒にいる時間が長くなる。  
 でもぱぱが帰ってきたら、さくっと選手交代。ただ今のキス、お帰りのキスが長くなっても気にしない。

 ぱぱはローゼンベルク家を支える柱。一家の中心に、すらっと伸びた背の高い樹だ。何があっても冷静で、落ち着いて、決して慌てたりしない。
 そんなしっかり者のぱぱだけど、時には心がカサカサ乾いて、干からびてしまう事もある。

 そんな時、ままはぱぱにぴとっと寄り添う。仕事から帰ってきて、「ただ今」を聞いたその瞬間から。
 ままが言う。

「ここ、しばらく任せてもいいかな」

 双子は静かにうなずいて、キッチンを出る広い背中を見送るのだ。
 ぱぱがちょっとふっくらして、食事に出て来れるようになるまで、夕食の支度は双子の仕事。二人がじっくりハグして、キスできるように。
 夕食が終わって食後の紅茶を飲み終わったら、さくさく手際よくお片づけ。
 そうしていつもより早めにお休みを言って、自分たちの部屋に引き上げる。
 
 ここからは、ぱぱとまま二人の時間。

「レオン」

 ままが自分の広い膝をぱたぱたと叩いてほほ笑みかける。

「Come on!」 
「……君にはかなわないな」

 あったかい膝にこてんと頭を乗せて、ぱぱはぬくぬく、上機嫌。ままのあったかい手で髪を撫でられ、耳の後ろをくすぐられる。カサカサに干からびたハートが潤って、柔らかくなるまでずっと。

 こうして日々の波を乗り越えながら、ゆらゆら、ゆったり時間を重ねて行く。

 サンフランシスコに住むローゼンベルク家のぱぱとままは、どちらも男の人だ。
 双子の本当のお父さんとお母さんは、二人が小さい頃に亡くなった。

『ぱぱ』が父親の役目を。
『まま』が母親の役目を。
 そして双子が子供の役目を。それぞれ果たして、始めて成り立つ『家族』です。
 

(家族の波/了)
 
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