▼ 家族の波
- 2007年のローゼンベルク一家の日常。
- 月梨さんのイラストを使い、絵本風にビジュアルノベル化したものをこちらで公開中。5分ほどの短い作品。(PCのみ)MacでもWindowsでも、ブラウザでお楽しみいただけます。
家族にも波はある。
映画になるほどドラマチック、とまでは行かなくても、毎日の暮らしの中で少しずつ。
浮く日もあれば、沈む日もある。晴れる日もあれば雨の日も、風の強い日もある。
別々の意志と別々の意識を持った人間が、ずっと一緒に生きているから。
サンフランシスコに住むローゼンベルクさんの家は、愛情深い料理上手な『まま』と、愛妻家で厳しい『ぱぱ』、そして、ちょっと意地っ張りな双子の四人家族。白い猫を飼っていて、同じマンションの下の階に住んでる友だちがちょくちょく(と言うか毎日?)夕飯を食べに来る。
毎週、水曜日の午後にままが双子を車に乗せて買い出しに行き、帰りにクリーニング屋に寄ってくる。
そんなありふれた家族の食卓にも、やっぱり『波』がある。
たとえば双子がちょっぴり沈んでいる時。
夕方が近づくにつれて訳も無く心細くなったり、一人でいると水の下にすうっと引き込まれそうな気分になる時は、何となく食堂に行く。
いつもは自分の部屋でやっている読書やホームスクーリングの宿題を、食卓でするのだ。
(ここにはいつでも、自分の座る場所がある)
(迎えてくれる場所がある)
どっしりした大きなクルミ材のテーブルに座って、二人一緒に。するとそのうちままが帰って来て、夕食の支度を始める。時間がある時は、食卓に座って新聞を読んだり、料理の本を開いたり。何を話すと言う訳じゃないけれど、一緒にいる。
ままの元気が無い時は、何となく双子がそばにいる。
ままは一家を照らすお日さまだ。お日さまが陰れば家の中は暗く、冷えきってしまう。
食卓に座って向き合って、ジャガイモの皮をむいたり、豆の殻をとったり、ギョウザを包んだり。ゆっくりゆっくり手間ひまかけて、いつもよりじっくり食事の支度をする。そうしうていつもよりほんの少し、一緒にいる時間が長くなる。
でもぱぱが帰ってきたら、さくっと選手交代。ただ今のキス、お帰りのキスが長くなっても気にしない。
ぱぱはローゼンベルク家を支える柱。一家の中心に、すらっと伸びた背の高い樹だ。何があっても冷静で、落ち着いて、決して慌てたりしない。
そんなしっかり者のぱぱだけど、時には心がカサカサ乾いて、干からびてしまう事もある。
そんな時、ままはぱぱにぴとっと寄り添う。仕事から帰ってきて、「ただ今」を聞いたその瞬間から。
ままが言う。
「ここ、しばらく任せてもいいかな」
双子は静かにうなずいて、キッチンを出る広い背中を見送るのだ。
ぱぱがちょっとふっくらして、食事に出て来れるようになるまで、夕食の支度は双子の仕事。二人がじっくりハグして、キスできるように。
夕食が終わって食後の紅茶を飲み終わったら、さくさく手際よくお片づけ。
そうしていつもより早めにお休みを言って、自分たちの部屋に引き上げる。
ここからは、ぱぱとまま二人の時間。
「レオン」
ままが自分の広い膝をぱたぱたと叩いてほほ笑みかける。
「Come on!」
「……君にはかなわないな」
あったかい膝にこてんと頭を乗せて、ぱぱはぬくぬく、上機嫌。ままのあったかい手で髪を撫でられ、耳の後ろをくすぐられる。カサカサに干からびたハートが潤って、柔らかくなるまでずっと。
こうして日々の波を乗り越えながら、ゆらゆら、ゆったり時間を重ねて行く。
サンフランシスコに住むローゼンベルク家のぱぱとままは、どちらも男の人だ。
双子の本当のお父さんとお母さんは、二人が小さい頃に亡くなった。
『ぱぱ』が父親の役目を。
『まま』が母親の役目を。
そして双子が子供の役目を。それぞれ果たして、始めて成り立つ『家族』です。
(家族の波/了)
次へ→留守番サクヤちゃん