▼ 【ex2-6】ヒウェル釣られる1
勉学の甲斐あって無事に大学を卒業、さらに一応成績優秀だったおかげでいわゆる一流の新聞社に潜り込むことができた。
できたけど、それだけ。
新米の俺に回ってくる仕事と言や、イベントの取材やらインテリアやグルメ、ペットの紹介記事とか実に細々としたお仕事ばっかりで……。
このままじゃダメなんだ。与えられた仕事をこなすだけじゃ。
自分から狩りに出なけりゃ、事件を射止めることなぞできやしない。とは言え、道を歩いていてそうおいそれとど派手な事件に出くわすはずもなく、悶々としているうちに日は流れて行く。
その日も、ガーデニングと、キルトと創作パイの展示発表会の記事なんぞをたらたらとまとめていた所に携帯が鳴った。
こりゃまた珍しい。『姫』から電話かかってくることなんざ滅多になかったのに。
「ハロー、レオン?」
「やあ、ヒウェル。念願の記者になれたそうだね、おめでとう」
「そりゃどーも。どーにかバーテンにならずにすみました、おかげさんで」
「ところで、面白い話があるんだ。とある警察官の不祥事について……聞きたいかい?」
「詳しく聞かせてください」
手帳を引っぱり出してページをめくる。どうやら運が向いてきた。それとも罠か?
どっちでもいい。
とりあえず食い付いてから考えよう。
「俺が世話になってる事務所で担当した被疑者がね。ああ女性だったんだが……とある警察官に、事情聴取にかこつけてハラスメントを受けていたんだよ」
「セクシャルな?」
「まあね」
どっちかと言うとゴシップ誌向きなような気がしないでもないが。いつの時代も人はこの手の話題を読みたがる。
金を払って新聞を買う読者であれ。ネット上のニュースの見出しを何気なくクリックして流し読みする読者であれ。
この手の話題には、ほぼ必ず食い付く。加害者がサンフランシスコ市警察の警官となればなおさらに、二重のスキャンダルに夢中になる。
「で、その警察官の名前は? ああ、ご心配なく、そのご婦人の名前はチラとも出しゃしませんよ。加害者の名前さえわかればいい」
そう、ここで大事なのはむしろ被害者より加害者(いや、容疑者か?)が誰であるか、だ。
獲物はそいつだ。
「君ならそう言うと思ったよ……フレデリック・パリスだ」
※ ※ ※ ※
電話を切ってからレオンは小さく安堵の息をついた。
これでいい。
あれからも度々、アパートの周囲でパリスとすれ違った。先輩弁護士のデイビットについて市警察に行った際にも。
その度に敵意と悪意をむき出しにした目を向けて来たが、もう恐ろしいとは思わなかった。
彼が手を染めていたのは、被疑者へのセクハラだけではない。対象も女性だけではなかった。
巡回区域のチンピラから上前を跳ね、さらにそれを束ねる犯罪組織とも繋がり、目こぼしと情報の見返りに恩恵を受けていたような腐った男だった。突けばいくらでも膿みが出そうだ。
こんな奴と相棒だったのかと思うと寒気がした。
だが、そんな男だからこそ、ディフに惹かれもしたのだろう。暗闇の中にいると星はことさらに明るく、輝いて見えるものだ。
(俺も……ある意味、彼と同じ、なのかな)
だからこそ、恋人として触れることはしないと決意した。どんなに狂おしくこの身が……魂が、彼を求めても。
時々、途中経過を確認するべきかもしれないな。詰まっているようなら、次のヒントを与えてやろう。もっとも、ヒウェルなら放っておいてもいろいろ探り出しそうな気がするけれど。
さしあたって自分はディフの身辺の安全にさえ気を配っていればいい。
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できたけど、それだけ。
新米の俺に回ってくる仕事と言や、イベントの取材やらインテリアやグルメ、ペットの紹介記事とか実に細々としたお仕事ばっかりで……。
このままじゃダメなんだ。与えられた仕事をこなすだけじゃ。
自分から狩りに出なけりゃ、事件を射止めることなぞできやしない。とは言え、道を歩いていてそうおいそれとど派手な事件に出くわすはずもなく、悶々としているうちに日は流れて行く。
その日も、ガーデニングと、キルトと創作パイの展示発表会の記事なんぞをたらたらとまとめていた所に携帯が鳴った。
こりゃまた珍しい。『姫』から電話かかってくることなんざ滅多になかったのに。
「ハロー、レオン?」
「やあ、ヒウェル。念願の記者になれたそうだね、おめでとう」
「そりゃどーも。どーにかバーテンにならずにすみました、おかげさんで」
「ところで、面白い話があるんだ。とある警察官の不祥事について……聞きたいかい?」
「詳しく聞かせてください」
手帳を引っぱり出してページをめくる。どうやら運が向いてきた。それとも罠か?
どっちでもいい。
とりあえず食い付いてから考えよう。
「俺が世話になってる事務所で担当した被疑者がね。ああ女性だったんだが……とある警察官に、事情聴取にかこつけてハラスメントを受けていたんだよ」
「セクシャルな?」
「まあね」
どっちかと言うとゴシップ誌向きなような気がしないでもないが。いつの時代も人はこの手の話題を読みたがる。
金を払って新聞を買う読者であれ。ネット上のニュースの見出しを何気なくクリックして流し読みする読者であれ。
この手の話題には、ほぼ必ず食い付く。加害者がサンフランシスコ市警察の警官となればなおさらに、二重のスキャンダルに夢中になる。
「で、その警察官の名前は? ああ、ご心配なく、そのご婦人の名前はチラとも出しゃしませんよ。加害者の名前さえわかればいい」
そう、ここで大事なのはむしろ被害者より加害者(いや、容疑者か?)が誰であるか、だ。
獲物はそいつだ。
「君ならそう言うと思ったよ……フレデリック・パリスだ」
※ ※ ※ ※
電話を切ってからレオンは小さく安堵の息をついた。
これでいい。
あれからも度々、アパートの周囲でパリスとすれ違った。先輩弁護士のデイビットについて市警察に行った際にも。
その度に敵意と悪意をむき出しにした目を向けて来たが、もう恐ろしいとは思わなかった。
彼が手を染めていたのは、被疑者へのセクハラだけではない。対象も女性だけではなかった。
巡回区域のチンピラから上前を跳ね、さらにそれを束ねる犯罪組織とも繋がり、目こぼしと情報の見返りに恩恵を受けていたような腐った男だった。突けばいくらでも膿みが出そうだ。
こんな奴と相棒だったのかと思うと寒気がした。
だが、そんな男だからこそ、ディフに惹かれもしたのだろう。暗闇の中にいると星はことさらに明るく、輝いて見えるものだ。
(俺も……ある意味、彼と同じ、なのかな)
だからこそ、恋人として触れることはしないと決意した。どんなに狂おしくこの身が……魂が、彼を求めても。
時々、途中経過を確認するべきかもしれないな。詰まっているようなら、次のヒントを与えてやろう。もっとも、ヒウェルなら放っておいてもいろいろ探り出しそうな気がするけれど。
さしあたって自分はディフの身辺の安全にさえ気を配っていればいい。
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