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ローゼンベルク家の食卓

【ex2-3】赤い髪のマックス2

2008/05/12 0:25 番外十海
「その制服も、じきに見納めだな」

 ロッカールームでフレディに言われた。
 年末の休暇が開ければ俺は爆発物処理班に移ることが決まっていた。

 911テロの後、市警察ではテロ対策でCSIと爆発物処理班の規模の拡大と人員の増強が行われた。
 爆発物処理班の班長は俺と同じスコティッシュで、以前から懇意にしてもらっていた。その彼が直々に俺をスカウトしてくれたのだ。

「マックス。君は化学と機械工学の学位をとってるそうだな。うちに……来るつもりはないか?」
「これからサンフランシスコで起きるであろう爆発のうち、一つでもいい。未然に防ぎたい。君の力を貸してくれ」

 チーフのその一言で転属を決意したが、パトロール警官にまったくの未練がないかと言えば嘘になる。
 何よりフレディと別の部署になるのが残念だった。警官として現場で必要なことは全て彼から教わった。新人としてこの署に配属されて以来、ずっと相棒で、友だちだった。そのコンビも、もうじき終わる。

「そうだな……まあ、式典の時なんかは着る訳だし。ガキの頃から憧れてたから、ちょっぴり寂しいけどな」
「俺も寂しいよ。お前、よく似合ってるし」
「ん……まあ、あれだ。CHiPsとどっちに入るか迷ったんだけど、あっちは制服、茶色だろ? 髪の色に合わないんだよ。どことなくぼけた感じになっちまう」
「あきれた奴だ。そんな理由で市警察に入ったのか!」
「高校生ん時の話だって! 勘弁してくれよ」

 フレディはポン、と肩に手を置いて顔を寄せてきた。

「お前、きれいな髪の毛してるな」
「そうかぁ?」
「伸ばさないのか」
「よせよ、ロンゲの警察官なんてしまらねぇ。俺の髪の毛、変なクセついてっからな。伸ばすと犬みたいだぞ、きっと」
「そんなことないだろ」

 肩にかかっていた手がすっと首筋をかすめて上に上がり、くしゃり、と髪の毛をなでられた。
 うわ、くすぐってぇ。
 思わず首をすくめる。

「本当に、きれいな赤毛だよ、お前は……」
「よせって。子どもじゃないんだから」
「赤毛の人間って気性が激しいんだってな……」
「ああ、よくそう言われる」
「ベッドの中でも」
「………そりゃ初耳だ」

 おいおい、警察のロッカールームでわい談か? 高校生じゃあるまいし。
 にやりと笑ったフレディが、また何やらロクでもないことを言いかけた所で奴の携帯が鳴った。

「鳴ってるぞ」
「……ああ。ったくこんな時に」

 ディスプレイを見るなり舌打ちして、俺の髪の毛から手を放し、離れて行った。

「今はまだ署内にいるんだ……ああ、後でかけ直す」

 込み入った電話らしい。
 一旦背中を向けて制服を脱いで。私服のシャツに袖を通しながらちらりと奴の方を振り返る。
 目が合った。
 薄い水色の瞳。どこか鋼鉄の輝きにも似ている。
 いつも隣で俺のことを見守ってくれた瞳が、なぜか……初めて見る、奇妙な光を宿しているように思えた。
 俺の視線に気づくと軽く手を振り、早足で部屋を出て行った。

 何だか、あまり感じのいい電話じゃなかった。

 心配だよ、フレディ。お前、まさかヤバい事に足つっこんでたり、しないよ……な?


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