ようこそゲストさん

ローゼンベルク家の食卓

【ex2-2】赤い髪のマックス1

2008/05/12 0:23 番外十海
 パパの相棒、マックスはすごく大きくて、がっしりしていて、目つきも鋭くて。
 最初会った時は怖かった。
 でも笑うと可愛い。
 ちょっとふわふわした赤い髪の毛はママに似てる。

 大人のくせに時々、同い年の男の子より子どもっぽい。かと思うと優しくて、あったかくて。
 でも、私のことを決して子どもあつかいしなかった。
 友だちとしていつも同じ目線で話してくれた。

 アイスをおごってもらった日の翌日、水曜日の朝。朝ご飯の途中で玄関のチャイムが鳴った。

「こんな朝っぱらに……誰だ?」

 パパが不機嫌そうにドアを開けたら、マックスが立っていた。

「よ、おはよう」
「マックス? どうしたんだ。今日は非番だろ」
「お互いに、な。ルースいるか?」
「あ、ああ」

 食べかけのトーストを放り出して玄関に走って行った。

「Hi!」
「よう、ルース! 良かった、間に合ったな。ほら、これ」

 かさっと紙袋を手渡された。ずっしりと重い。
 いいにおいがする。

「……え、これ……お弁当!?」
「ついでだよ、ついで。夕べ、ミートローフ焼いたから」

 ミートローフと野菜と卵のサンドイッチ。
 きちんと四つに切り分けてある。

「これなら分けて食うのに楽だろ? さすがにランチボックスまでは手が回らなかったけど」
「ありがとう!」

 がっしりした背中に腕を回して抱きついた。
 ごつごつしていて、堅いけど、あったかい。

「マックス……大好き……」
「ああ。俺も大好きだよ、ルース」

 見上げると、うれしそうにほほ笑んでいた。ヘーゼルブラウンの瞳を細めて、ご機嫌なゴールデンレトリバーそっくりの表情で。
 ほんと、こう言う時っていつものおっかない顔が嘘みたい……男の人だけど、やっぱりママに似てるな。


 ※ ※ ※ ※


 何てこった。

 娘と抱き合い、顔中笑み崩す相棒の姿を見ながらパリスは秘かに驚き、とまどっていた。

 最初にこいつが配属されて自分の相棒になった時は、何とも生意気そうな新人が来やがったと、正直うっとおしく思った。
 どうせテキサスレンジャーかぶれの、腕っ節の強さを鼻にかけたタフガイ気取りの男だろうと。

 一緒に勤務するうちに、そんな先入観はあっさり消えたのだが。
 実際彼の腕力は強かったが、最小限の労力で効率よく容疑者を取り押さえるやり方を心得ていた。
 たまに行き過ぎることもあったが、二言三言、助言を与えると素直に聞いて、二度と同じ失敗はくり返さなかった。
 殴られても。時にはナイフで切られても決して膝をつかず、犯人を逮捕してから「血が出てるぞ」と指摘するとそこで初めて痛そうな顔をする。

 つくづく無鉄砲な奴だと呆れ、同時に丈夫な男だと感心したもんだ。
 どこまでも一本気で、真っすぐで。長い事町を巡るうちに誰もが身につける灰色にも染まらず、真っ白なまま。それ故に敵も多いが降り掛かった火の粉は自らの手で払い、決して自分を曲げようとはしない。
 だが、相棒の自分に対してはどこまでも誠実で、裏切らない。
 彼から向けられる無条件の好意と信頼に最初のうちこそとまどったが、今ではすっかり空気を呼吸するように自然に受け入れている。

 
 110906_0012~01.JPG
 illustrated by Kasuri
 そんな男に。
 何故か今、妻の面影が重なる。自分を捨てて恋人と去って行った女の姿が。

(馬鹿な。錯覚だ)

 ああ。しかし……。
 何てきれいな髪の毛してやがるんだろうなあ、こいつは。赤くて、艶やかで、ほんの少しウェーブがかかっている
 ほんとにそっくりだよ。
 あの女に。


次へ→【ex2-3】赤い髪のマックス2
拍手する