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ローゼンベルク家の食卓

【ex13-9】実はまだ……

2013/01/13 2:56 番外十海
     ※

 ローゼンベルク家のキッチンでは、オーブンからつーんと香ばしいショウガの香りが漂っていた。
 双子と『まま』がエプロンに身を包み、ホリデーシーズン恒例のジンジャークッキーを焼いている真っ最中なのだ。

「……あれ?」

 シエンは思わず首を傾げた。さっき天板を網の上に乗せ、焼き上がったクッキーを冷ましてあったはずなのに。残っているのは空っぽの天板とクッキングペーパーのみ。

「無くなってる!」

 ディフはじとーっと目を半開きにして、黒髪のひょろっとした眼鏡男をにらんだ。

「ヒウェル……お前って奴は、待ち切れなかったのか」
「濡れ衣だーっ!」

 大げさに叫んでのけぞるヒウェルの口元には、クッキーの粉がこびりついている。
 オティアは黙ってへたれ眼鏡の口元を指さした。
 眼鏡男はくしくしと手の甲で拭い、証拠物件を見て、しかる後ささっと払い落とした。この間、ままと双子は沈黙の内に全てを見守っていた。

「俺は、一枚しか食ってない!」
「やはり貴様か」

 ごごごごっと怒りの炎を燃やしながら、ディフがべき、ばき、と指を鳴らして詰め寄る。ヒウェルはたじたじと後ずさり。だがじきに背中が壁にぶつかった。

「反省しろ!」
「いでで、ぎぶあっぷ、ぎぶあーっぷ」

 情け無用のオクトパスホールドを決められるヒウェルの姿を、物陰からうかがう小さな生き物たちが居た。亜麻色の髪の毛に蜜色の瞳の、まるまっちい二頭身の小人。家つき妖精、ちっちゃいさんだ。

「きゅっふっふ」

 ほくそ笑み、さくさくと両手で抱えたジンジャークッキーをかじる。

「きゃわきゃわ」
「きゃわわっ」
「……でりしゃす」

 まだ、つながってるみたいです。

(ローゼンベルク家のとりねこ/了)

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