▼ 【3-8-2】茹で過ぎは食えたもんじゃねえ
ガキの頃からサンフランシスコに住んでいて、一つ悟ったことがある。
きっちりアルデンテにゆで上がったパスタを食いたいと思ったら、まず家で作るに限るってことだ。
だいたい店で出されるやつはぐだぐだに茹だりすぎていて、口ん中でもたつくわ、胃の中でトグロ巻くわで食えたもんじゃねえ。
専門のイタリアンレストランに行けばソースはそこそこ美味いのが食えるし、ゆで加減も若干マシなのだが……それにしたって俺の基準からすりゃ充分、茹ですぎだ。
だから、オティアがパスタが好きらしいとわかった時、自分で作ることにしたんだ。
「どうしたんだ、それ」
必要な材料を買い込んできて。ウォールナットの無垢材で作られたでっかいダイニングテーブルの上にどすん、と置いたらディフの奴は目を丸くして首をかしげた。
「今日の夕飯は俺が作るよ」
「……お前、正気か?」
「失礼だなー。いっつも食わせてもらってばっかじゃ悪いからさ……って何デコに触ってんだよ」
「いや、熱でもあるんじゃないかと思って」
「おい」
「だいたいお前、家事なんか滅多にしないだろ。腹減ったらチョコバーかじってしのぐし、靴下脱いだら丸めて床に放り出しっぱなしで、絶対片付けないし……」
「そーなんだ」
シエンがうなずいている。
「高校ん時の話をいつまでもひきずるなっ! 俺だって多少は成長したぞ?」
「本当か? お前、今も自分の部屋は……」
「はい、ストーップ!」
早々にディフをキッチンから追い出すと、何やらぶつぶつ言いながら自分の部屋に戻って行った。
「何を作るの?」
「ペペロンチーノ」
「この間カニと一緒に食べた、あれ?」
「そう、あれ」
うなずくと、シエンは心配そうに左肘のあたりに視線を向けてきた。少しだけ伏し目がちに。
「腕、もう大丈夫?」
「ああ、すっかり!」
ぶんぶんと回してみせると、シエンはうなずいて小さく
「そう……良かったね」
と、つぶやいた。微妙に視線を背後に……黙々とテーブルを拭いているオティアに向けて。
「ヒウェル、エプロンしなくて大丈夫?」
「ああ」
ジャケットを脱ぎ、シャツ(本日の色は極めて薄い桜色)の腕をまくった。
「ほい、これで準備完了」
「それで……いいんだ」
「俺はディフほど髪の毛長くないからな。くくる必要もないし」
「あー……」
シエンが何やら言いたげな視線を向けてきたが、結局何も言わずに自分のエプロンをつけていた。
「よし、始めるか」
寸胴鍋いっぱいに水を入れて、ぐらぐらわかしていたらいきなり鼻がむずむずして。
「ぶぇっくしょいっ」
派手なくしゃみをぶちかましていた。
すかさずシエンが小さな声で言ってくれた。
「お大事に」
「ありがとさん。ったく、誰かウワサしてんのかぁ?」
ぎろりとオティアがにらんでくる。
「鍋の前でやってんじゃねー」
「……わーったよ、気ぃつける」
「うつったらシメる」
「……………………細心の注意を払います」
にらまれた。
怒られた。
でも、自分から話しかけてくれた。それだけで胸が躍り、顔がほころぶ。
鍋に塩をひとつまみぱらっと入れて、大量のパスタをぞろりと投入する。お湯に浸かったところからくたくたと折れ曲がるのを、軽くトングで混ぜる。
「菜箸使わないの?」
「こっちのが楽」
五人分のパスタが湯の中にまんべんなく浸った所で、ひまわりの形をしたキッチンタイマーをきりっと回して、かっきり11分にセットする。
およそ男ばかりの部屋に似つかわしくない、厚さ1インチほどの黄色いお花の形のタイマー。丈夫で長持ち、今時珍しい回転式。ディフの入院中に新しく買ったものだ。
かつてこの家には、キッチンタイマーなんて洒落た道具は存在しなかった。
ディフの奴はパスタを茹でるのも腕時計のクロノグラフで計るから。時限爆弾の残り時間でも計る時みたいにそりゃもう、真剣に。
ついでに言うと、ここの台所にある鍋はどれもこれも重量級で。シエンはいつも重たい鍋を両手で苦労しながら上げ下げしていた。
時にはオティアと二人がかりで、一つの鍋を抱えて。
パスタを茹でる時なんざ、寸胴鍋をコンロに乗せてからヤカンでちまちま水を入れていた。(水が入ってると重くて持ち上げられないのだ)
だからタイマーと一緒に小さめの鍋を買った。あの子でも楽に扱えるような、軽い奴を。
「これ使うといい」
そう言ってテーブルの上に乗せるとすごくうれしそうに笑って「……ありがと」と言って。大喜びで鍋を洗って火にかけていた。
「オティア。吹きこぼれないように見張っててくれるか?」
黙ってこくっとうなずいた。
よし、これでこっちはOK。
その間に赤唐辛子を刻む。一人1本……いや、2本いっとくか。続いてベーコンを細切りにして。皮を剥いたニンニクは薄切りに。
包丁とまな板を洗ってから(臭いが着くとディフがうるさいのだ)、フライパンでがーっと炒める。
その間にシエンは隣でレタスをちぎってはボウルに張った氷水にくぐらせていた。
「あ……サラダか。サンキュ」
「うん。野菜もとらないとね」
着々と双子の食育は進んでいるようだ。手際良くトマトを切り終えると、ちっちゃな鍋をとりだして。
お湯を沸かし、アスパラを茹ではじめた。
マメだな。俺ならそこで手ー抜いて、パスタと一緒にゆでちまうよ。
チリリリリリリリリ!
レトロなベル音が鳴り響く。11分経過、パスタのゆで上がり。
一本つまみとって口に入れる。
あちち!
堅からず、柔かすぎず、芯は残ってない……よし、いい感じだ。
ほんとは一本とってびしっと壁に投げつけて、張り付くかどうかで判定したいとこだが下手にやったら……後が怖い、ディフが怖い。
鍋つかみを両手にはめて、慎重に寸胴鍋を持ち上げる。ここでひっくり返したら大惨事だ。そーっと、そーっと。
さすがに五人分は、重い。シンクまで運んでゆき、あらかじめセットしておいたザルの上に流す。
ちまちまトングで落すなんて面倒なことやってらんない。大量のお湯とパスタを、ざばーっといっぺんに。
絶対、こうした方が美味いと信じている。(根拠はないが)
もうもうと真っ白な湯気が噴き上がり、一瞬視界が真っ白になった。
「うわぷっ」
「……眼鏡ぐらい外しとけ」
「るっさい、今外そうと思ったとこだよ」
眼鏡を外して、たたんでキッチンカウンターに乗せる。ちょっとばかり世界がぼんやりしてしまったが、文字を読む訳じゃあるまいし。どうにかなるだろ。
だいたい俺の目は近視と言うより乱視が強いのだ。裸眼だと人の顔の細かい表情や文字を判別するのは難しいが、物の輪郭や色、形そのものは比較的よく見える。包丁を使うのはさすがにきついが、刻むべきものはもう全部刻んである。
よし、問題なし。
フライパンにオリーブオイルを引いて、バターをひとかけら。ベーコンと薄切りガーリックを炒めた。
人類で最初にベーコンを発明した奴に感謝したいね。ちょいと火を通しただけで美味そうなにおいがぶわぶわっと大発生。
そこにガーリックが加わった日にゃあ……吸血鬼じゃなくてよかったと心底思う。
火が通った所にパスタを投入、一気にがーっといためて塩胡椒を振って。
仕上げに刻んだ赤唐辛子を散らす。ちょい、と味見して……
「んむ、完ぺき」
「ヒウェルもけっこう料理できるよねー……」
「まあな。これでも一人暮らし、そこそこ長いから」
「皿も鍋も洗わないけどな」
ぬっと背後から厳つい赤毛が鼻つっこんできやがった。
「だって学生の時はお前がやってくれたし」
「放っておくと部屋ん中が魔窟になるからだ! だいったいお前ときたら読んだ本片っ端から部屋の床に放り出して絶対片付けないし」
「あれは置いてあるんだ。放り出したんじゃない」
「どうだか? ……シエン、皿出してくれ」
「うん」
大きめの平皿にペペロンチーノ、少し深めの小皿にサラダ。
「飲み物なんにするー?」
シエンに聞かれ、相変わらず黙々とフォークとスプーンを並べていたオティアがぼそりと答えた。
「……水でいい」
「OK、水な」
炭酸無しのボトルウォーターを取り出し、大きめのグラスについで、とりあえず一人一杯ずつ。
「粉チーズ使う奴いる?」
「一応テーブルに出しとけ」
「わーった」
皿に盛りつけたペペロンチーノとサラダが五人分、でっかいダイニングテーブルに並んだのを確認してから眼鏡をかけ直す。
「よーし、できたぞ」
不意に背後で声がした。
「……今夜はヒウェルが作ったんだって?」
「わあ、レオン、いつからそこに」
「さっきから」
※ ※ ※ ※
食ってる間中、気になってしかたなかった。何がって、オティアのことに決まってる。
ディフの入院中に何度か飯は作ってきたが、今日は特別だ。こいつのために、作った。こいつに食べて欲しくて。
相変わらず表情は動かさないが黙々と食って、二皿目をよそっている。信じられない、基本的に小食のこいつが!
シエンが目を丸くしている。
ディフも。
レオンでさえ意外そうに「ほう」と小さな声を出した。
食卓の視線がそこはかとなくオティアに集中している。
肋骨の内側でばっくんばっくん飛び跳ねる心臓をなだめつつ、聞いてみる。
「……うまいか?」
「……まぁまぁ」
「そうか!」
最上級のほめ言葉だ。
「オティア、スパゲティ好きだよね」
「……」
「そうか…好きなのか……また作るよ」
「うん」
シエンの隣でオティアが小さくうなずいた。ちらっと。ほんの短い間、確かにこっちを見ていた。
次へ→【3-8-3】ヒウェルの告白
きっちりアルデンテにゆで上がったパスタを食いたいと思ったら、まず家で作るに限るってことだ。
だいたい店で出されるやつはぐだぐだに茹だりすぎていて、口ん中でもたつくわ、胃の中でトグロ巻くわで食えたもんじゃねえ。
専門のイタリアンレストランに行けばソースはそこそこ美味いのが食えるし、ゆで加減も若干マシなのだが……それにしたって俺の基準からすりゃ充分、茹ですぎだ。
だから、オティアがパスタが好きらしいとわかった時、自分で作ることにしたんだ。
「どうしたんだ、それ」
必要な材料を買い込んできて。ウォールナットの無垢材で作られたでっかいダイニングテーブルの上にどすん、と置いたらディフの奴は目を丸くして首をかしげた。
「今日の夕飯は俺が作るよ」
「……お前、正気か?」
「失礼だなー。いっつも食わせてもらってばっかじゃ悪いからさ……って何デコに触ってんだよ」
「いや、熱でもあるんじゃないかと思って」
「おい」
「だいたいお前、家事なんか滅多にしないだろ。腹減ったらチョコバーかじってしのぐし、靴下脱いだら丸めて床に放り出しっぱなしで、絶対片付けないし……」
「そーなんだ」
シエンがうなずいている。
「高校ん時の話をいつまでもひきずるなっ! 俺だって多少は成長したぞ?」
「本当か? お前、今も自分の部屋は……」
「はい、ストーップ!」
早々にディフをキッチンから追い出すと、何やらぶつぶつ言いながら自分の部屋に戻って行った。
「何を作るの?」
「ペペロンチーノ」
「この間カニと一緒に食べた、あれ?」
「そう、あれ」
うなずくと、シエンは心配そうに左肘のあたりに視線を向けてきた。少しだけ伏し目がちに。
「腕、もう大丈夫?」
「ああ、すっかり!」
ぶんぶんと回してみせると、シエンはうなずいて小さく
「そう……良かったね」
と、つぶやいた。微妙に視線を背後に……黙々とテーブルを拭いているオティアに向けて。
「ヒウェル、エプロンしなくて大丈夫?」
「ああ」
ジャケットを脱ぎ、シャツ(本日の色は極めて薄い桜色)の腕をまくった。
「ほい、これで準備完了」
「それで……いいんだ」
「俺はディフほど髪の毛長くないからな。くくる必要もないし」
「あー……」
シエンが何やら言いたげな視線を向けてきたが、結局何も言わずに自分のエプロンをつけていた。
「よし、始めるか」
寸胴鍋いっぱいに水を入れて、ぐらぐらわかしていたらいきなり鼻がむずむずして。
「ぶぇっくしょいっ」
派手なくしゃみをぶちかましていた。
すかさずシエンが小さな声で言ってくれた。
「お大事に」
「ありがとさん。ったく、誰かウワサしてんのかぁ?」
ぎろりとオティアがにらんでくる。
「鍋の前でやってんじゃねー」
「……わーったよ、気ぃつける」
「うつったらシメる」
「……………………細心の注意を払います」
にらまれた。
怒られた。
でも、自分から話しかけてくれた。それだけで胸が躍り、顔がほころぶ。
鍋に塩をひとつまみぱらっと入れて、大量のパスタをぞろりと投入する。お湯に浸かったところからくたくたと折れ曲がるのを、軽くトングで混ぜる。
「菜箸使わないの?」
「こっちのが楽」
五人分のパスタが湯の中にまんべんなく浸った所で、ひまわりの形をしたキッチンタイマーをきりっと回して、かっきり11分にセットする。
およそ男ばかりの部屋に似つかわしくない、厚さ1インチほどの黄色いお花の形のタイマー。丈夫で長持ち、今時珍しい回転式。ディフの入院中に新しく買ったものだ。
かつてこの家には、キッチンタイマーなんて洒落た道具は存在しなかった。
ディフの奴はパスタを茹でるのも腕時計のクロノグラフで計るから。時限爆弾の残り時間でも計る時みたいにそりゃもう、真剣に。
ついでに言うと、ここの台所にある鍋はどれもこれも重量級で。シエンはいつも重たい鍋を両手で苦労しながら上げ下げしていた。
時にはオティアと二人がかりで、一つの鍋を抱えて。
パスタを茹でる時なんざ、寸胴鍋をコンロに乗せてからヤカンでちまちま水を入れていた。(水が入ってると重くて持ち上げられないのだ)
だからタイマーと一緒に小さめの鍋を買った。あの子でも楽に扱えるような、軽い奴を。
「これ使うといい」
そう言ってテーブルの上に乗せるとすごくうれしそうに笑って「……ありがと」と言って。大喜びで鍋を洗って火にかけていた。
「オティア。吹きこぼれないように見張っててくれるか?」
黙ってこくっとうなずいた。
よし、これでこっちはOK。
その間に赤唐辛子を刻む。一人1本……いや、2本いっとくか。続いてベーコンを細切りにして。皮を剥いたニンニクは薄切りに。
包丁とまな板を洗ってから(臭いが着くとディフがうるさいのだ)、フライパンでがーっと炒める。
その間にシエンは隣でレタスをちぎってはボウルに張った氷水にくぐらせていた。
「あ……サラダか。サンキュ」
「うん。野菜もとらないとね」
着々と双子の食育は進んでいるようだ。手際良くトマトを切り終えると、ちっちゃな鍋をとりだして。
お湯を沸かし、アスパラを茹ではじめた。
マメだな。俺ならそこで手ー抜いて、パスタと一緒にゆでちまうよ。
チリリリリリリリリ!
レトロなベル音が鳴り響く。11分経過、パスタのゆで上がり。
一本つまみとって口に入れる。
あちち!
堅からず、柔かすぎず、芯は残ってない……よし、いい感じだ。
ほんとは一本とってびしっと壁に投げつけて、張り付くかどうかで判定したいとこだが下手にやったら……後が怖い、ディフが怖い。
鍋つかみを両手にはめて、慎重に寸胴鍋を持ち上げる。ここでひっくり返したら大惨事だ。そーっと、そーっと。
さすがに五人分は、重い。シンクまで運んでゆき、あらかじめセットしておいたザルの上に流す。
ちまちまトングで落すなんて面倒なことやってらんない。大量のお湯とパスタを、ざばーっといっぺんに。
絶対、こうした方が美味いと信じている。(根拠はないが)
もうもうと真っ白な湯気が噴き上がり、一瞬視界が真っ白になった。
「うわぷっ」
「……眼鏡ぐらい外しとけ」
「るっさい、今外そうと思ったとこだよ」
眼鏡を外して、たたんでキッチンカウンターに乗せる。ちょっとばかり世界がぼんやりしてしまったが、文字を読む訳じゃあるまいし。どうにかなるだろ。
だいたい俺の目は近視と言うより乱視が強いのだ。裸眼だと人の顔の細かい表情や文字を判別するのは難しいが、物の輪郭や色、形そのものは比較的よく見える。包丁を使うのはさすがにきついが、刻むべきものはもう全部刻んである。
よし、問題なし。
フライパンにオリーブオイルを引いて、バターをひとかけら。ベーコンと薄切りガーリックを炒めた。
人類で最初にベーコンを発明した奴に感謝したいね。ちょいと火を通しただけで美味そうなにおいがぶわぶわっと大発生。
そこにガーリックが加わった日にゃあ……吸血鬼じゃなくてよかったと心底思う。
火が通った所にパスタを投入、一気にがーっといためて塩胡椒を振って。
仕上げに刻んだ赤唐辛子を散らす。ちょい、と味見して……
「んむ、完ぺき」
「ヒウェルもけっこう料理できるよねー……」
「まあな。これでも一人暮らし、そこそこ長いから」
「皿も鍋も洗わないけどな」
ぬっと背後から厳つい赤毛が鼻つっこんできやがった。
「だって学生の時はお前がやってくれたし」
「放っておくと部屋ん中が魔窟になるからだ! だいったいお前ときたら読んだ本片っ端から部屋の床に放り出して絶対片付けないし」
「あれは置いてあるんだ。放り出したんじゃない」
「どうだか? ……シエン、皿出してくれ」
「うん」
大きめの平皿にペペロンチーノ、少し深めの小皿にサラダ。
「飲み物なんにするー?」
シエンに聞かれ、相変わらず黙々とフォークとスプーンを並べていたオティアがぼそりと答えた。
「……水でいい」
「OK、水な」
炭酸無しのボトルウォーターを取り出し、大きめのグラスについで、とりあえず一人一杯ずつ。
「粉チーズ使う奴いる?」
「一応テーブルに出しとけ」
「わーった」
皿に盛りつけたペペロンチーノとサラダが五人分、でっかいダイニングテーブルに並んだのを確認してから眼鏡をかけ直す。
「よーし、できたぞ」
不意に背後で声がした。
「……今夜はヒウェルが作ったんだって?」
「わあ、レオン、いつからそこに」
「さっきから」
※ ※ ※ ※
食ってる間中、気になってしかたなかった。何がって、オティアのことに決まってる。
ディフの入院中に何度か飯は作ってきたが、今日は特別だ。こいつのために、作った。こいつに食べて欲しくて。
相変わらず表情は動かさないが黙々と食って、二皿目をよそっている。信じられない、基本的に小食のこいつが!
シエンが目を丸くしている。
ディフも。
レオンでさえ意外そうに「ほう」と小さな声を出した。
食卓の視線がそこはかとなくオティアに集中している。
肋骨の内側でばっくんばっくん飛び跳ねる心臓をなだめつつ、聞いてみる。
「……うまいか?」
「……まぁまぁ」
「そうか!」
最上級のほめ言葉だ。
「オティア、スパゲティ好きだよね」
「……」
「そうか…好きなのか……また作るよ」
「うん」
シエンの隣でオティアが小さくうなずいた。ちらっと。ほんの短い間、確かにこっちを見ていた。
次へ→【3-8-3】ヒウェルの告白