▼ 【3-7-7】おやすみ/good night
その夜、寝室で。
例によって泊まることになったディフは嬉しそうにレオンにジムでの様子を報告していた。
「いい蹴りしてんな、あいつ。もうちょっと動きをブラッシュアップすりゃかなり使えるぞ」
「そんなタイプには見えないな……意外だね」
「身を守るため、ってかシエンを守るために身につけたんだろ」
「なるほど」
「優秀だよ、オティアは」
嬉しそうに笑いながらシャツの裾をめくる。わき腹にうっすら青あざが浮いていた。
「すまん、ここ、湿布貼ってくれるか」
「これは、あの子が?」
「避けるのもシャクだったからな。つい大人げなく受けちまった」
「怪我はしないようにしてくれよ…」
ぺたりと湿布が貼られた瞬間、ディフはわずかに眉をしかめて身をすくませた。
「ぅっ………ああ。気をつける。ヒウェルは思いっきり床に転がされてた」
「ヒウェルまで参加してたのか」
「どこ行くんだって言われたからジムだって言ったら着いてきたんだ。あー俺も最近運動不足だからなー、とか何とか言って」
「なんというか…随分わかりやすくなったじゃないか。ヒウェルも」
「不気味なくらいにな…最初は同じ里子だから同情してんのかなと思ったが。どうもその範疇越えてるような気がして」
「いや、それは気のせいじゃないよ」
「そうなのか? 双子のうち…とくにオティアの後をついてばっかりいるような気がしたんだが…気のせいじゃなかったのか」
レオンは思った。
握った手を口もとに当てている。考え込む時のお決まりの仕草だ。ディフには教えないほうがよかったかな。
「かなり本気のようだけどね…ただ」
「ん?」
「当面は交際禁止だな」
「ああ、犯罪だ。未成年だし。それ以前にヒウェルは存在自体がある意味犯罪だ」
つきあいが長いだけに容赦ない。
「それでなくても、あの子は考えられる限り最悪の性的虐待の経験者だ。普通に恋愛に発展するかどうかもあやしいね」
ぎりっとディフが唇を噛みしめる。
「そうだな。ヒウェルには一度クギを刺しておくとして……」
「M26破片手榴弾の一発二発投げ込んどいても釣りが来たな」
喉の奥から大型犬が唸るような声を出した。かなり本気だ。脅しじゃない。
「ディフ」
たしなめるような声で名前を呼び、わずかに目を細めて視線を合わせる。
効果てきめん。凶悪な気配が消え失せ、飼い主にしかられた犬のようにうなだれた。
「…………ごめん」
「君の弁護なら、いくらでもするけどね」
「お前の弁護なら心強いや……でも……そんなことさせたくないよ。約束する、レオン。自重する」
「ああ」
手のひらで頬を包み込み、さらさらしたライトブラウンの髪をかきわけて額に口付ける。
微笑んで受けてくれた。
(a day without anything/了)
次へ→【3-8】ペペロンチーノ
例によって泊まることになったディフは嬉しそうにレオンにジムでの様子を報告していた。
「いい蹴りしてんな、あいつ。もうちょっと動きをブラッシュアップすりゃかなり使えるぞ」
「そんなタイプには見えないな……意外だね」
「身を守るため、ってかシエンを守るために身につけたんだろ」
「なるほど」
「優秀だよ、オティアは」
嬉しそうに笑いながらシャツの裾をめくる。わき腹にうっすら青あざが浮いていた。
「すまん、ここ、湿布貼ってくれるか」
「これは、あの子が?」
「避けるのもシャクだったからな。つい大人げなく受けちまった」
「怪我はしないようにしてくれよ…」
ぺたりと湿布が貼られた瞬間、ディフはわずかに眉をしかめて身をすくませた。
「ぅっ………ああ。気をつける。ヒウェルは思いっきり床に転がされてた」
「ヒウェルまで参加してたのか」
「どこ行くんだって言われたからジムだって言ったら着いてきたんだ。あー俺も最近運動不足だからなー、とか何とか言って」
「なんというか…随分わかりやすくなったじゃないか。ヒウェルも」
「不気味なくらいにな…最初は同じ里子だから同情してんのかなと思ったが。どうもその範疇越えてるような気がして」
「いや、それは気のせいじゃないよ」
「そうなのか? 双子のうち…とくにオティアの後をついてばっかりいるような気がしたんだが…気のせいじゃなかったのか」
レオンは思った。
握った手を口もとに当てている。考え込む時のお決まりの仕草だ。ディフには教えないほうがよかったかな。
「かなり本気のようだけどね…ただ」
「ん?」
「当面は交際禁止だな」
「ああ、犯罪だ。未成年だし。それ以前にヒウェルは存在自体がある意味犯罪だ」
つきあいが長いだけに容赦ない。
「それでなくても、あの子は考えられる限り最悪の性的虐待の経験者だ。普通に恋愛に発展するかどうかもあやしいね」
ぎりっとディフが唇を噛みしめる。
「そうだな。ヒウェルには一度クギを刺しておくとして……」
「M26破片手榴弾の一発二発投げ込んどいても釣りが来たな」
喉の奥から大型犬が唸るような声を出した。かなり本気だ。脅しじゃない。
「ディフ」
たしなめるような声で名前を呼び、わずかに目を細めて視線を合わせる。
効果てきめん。凶悪な気配が消え失せ、飼い主にしかられた犬のようにうなだれた。
「…………ごめん」
「君の弁護なら、いくらでもするけどね」
「お前の弁護なら心強いや……でも……そんなことさせたくないよ。約束する、レオン。自重する」
「ああ」
手のひらで頬を包み込み、さらさらしたライトブラウンの髪をかきわけて額に口付ける。
微笑んで受けてくれた。
(a day without anything/了)
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