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ローゼンベルク家の食卓

【3-7-5】母との電話/before dinner

2008/04/04 19:02 三話十海
 久しぶりに自宅に戻ると……なるほど、留守電のライトがぺかぺかと光っている。
 全部、母からだ。
 一応、退院してからも何度かこっちで寝てはいるんだがつい、おっくうで後回しにしていた。

 だいたい自宅にかけてくる人間はごくわずかだし、そう言った連中は急ぎの用事なら留守電に残すよりまず、携帯にかけ直してくる。
 しかし母は例外、あくまで彼女は固定電話にかけないと気がすまないらしいのだ。

 久しぶりに受話器をとり、実家の番号を選んでかける。
 この時間なら親父でもなく兄貴でもなく、母がとるはずだ。

「ハロー、ディー!」

 ほらな。

「バイトの子、入ったのね、名前なんて言うの?」

 開口一番、これか。

「オティア」
「そう。ちょっと緊張してるみたいだけど受け答えのきちんとできてる子だし。いいバイトさん入ってくれてよかったわね! あなたへの伝言もちゃんと伝えてくれたし、珍しくあなたから電話がかかってきたし」
「……母さん。用事は?」


「そうそう、そうだったわね! 結婚するのよ!」

 一瞬、頭の中が真っ白になる。

「……誰が?」
「ジェニーよ。あなたの従姉の」
「ああ……彼女か」

 これが姪っ子ならびっくりだが(まだ3歳だぞ)、ジェニーなら納得だ。

「式は、いつ?」
「来週よ」
「そうか、おめでとうって伝えといて。式場の住所は? 花贈るなら自宅の方がいいかな」
「……帰ってくるって言う選択肢はないのね?」
「ん、まあ、それなりに忙しいんだ」
「ランスが会いたがってたわよ」

 ランスロットは一番上の従兄の息子だ。今年17になる。ちびの頃から俺の後をちょこまかくっついてきたもんだ。
 奴に『おじさん』ではなく『お兄さん』と呼ばせなかったのは人生最大の失敗だったが、最近は前ほど気にならなくなってきた。

「そのうち帰るよ、そのうち」
「なら、いいけど……ああ、そうだ。それであなた、入院したってほんと?」
「いや、もう、退院してるし」

 どこから聞いたんだろう。レオンか、ヒウェルってとこだな、多分。
 おそらくヒウェルだ。あいつ妙にお袋に気に入られてたし。


「ハロー、ヒウェル? なんだかディーと最近連絡とれないんだけど」
「あー、あいつちょっと背中すりむいて入院しまして」
「……命にかかわる怪我じゃないのね?」
「今日、見舞いに行きましたけどね。せっせとダンベルで筋トレしてましたよ」
「そう、ありがとう」


 電話を切ってから改めて留守電のメッセージを再生する。
 
『ハロー、ディー。入院したんですって? 命に別状ないってヒウェルが言ってたけど……』
『退院したら連絡ちょうだいね。それじゃ、愛してるわ』

『留守電ぐらい確認しろよ』

 オティアの声が耳の奥に聞こえた。
 ……まったくだ。

 ごめん、母さん。

 時計を見る。
 そろそろ夕食の時間だ。部屋を出て隣に向かった。

「ただいま。すぐ、飯の仕度するからな」


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