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ローゼンベルク家の食卓

【3-15-4】結婚の贈物

2008/07/06 18:32 三話十海
 その夜。
 夕飯が終わってから、リビングでレオンとディフと三人で改めて式の打ち合わせをした。

「それで。式に使う花は全部『エリスおばさんの店』に発注すりゃいいんだな?」
「ああ」
「ブーケがないから、ブートニア(新郎が胸につける花)の花を青いのにしようか」
「いいっすね、矢車菊とかコーンフラワーとか……ああ、やっぱりブーケは必要か」
「何?」
「だって、最後に投げるだろ?」

 ディフが無言でべきっと指を鳴らした。

「……わかったよ。じゃあミニサイズのやつを一個」
「小さくすりゃいいってもんじゃねえだろうが!」
「誤解すんな、お前用じゃない」

 テーブルの上にライオンと並んで座るクマの頭をぽん、と叩く。

「こいつ用だ」
「それだ。何だっていきなり、ぬいぐるみとってこいだなんて言ったんだお前?」
「なぁに、ちょいとサイズ計っておこうと思ってね……こいつらには大事なお役目を果たしていただく」

 すちゃっと持参したメジャーを取り出し、引きのばす。

「当日、忙しい新郎新婦に代わって受け付けでお客さんを出迎えていただくんだよ。ウェルカムベアーと、ウェルカムライオンだ」

 くすっとレオンが笑った。

「面白いことを考えるね、ヒウェル」
「見た事ありません? 結婚式で……。普通はそれ専用のを用意するんだけど、今回はこいつらがいるから」

 てきぱきとライオンの首周り、腕の長さ、太さ、胴回りを計って行く。

「衣装もオーダーメイドするとか言わないよね、ヒウェル?」
「いや、さすがにそこまでは。ぬいぐるみ用の衣装って最近は種類が豊富だから、多分見つかりますよ……はい、ご苦労さん、次は君」

 続いてクマの採寸をしていると、ディフがぼそっと言った。

「まさかとは思うが。ドレス着せてやろう、なんて思ってないだろうな?」
「は? はははっ、ま、まさか。そーんなこと、考える訳ないじゃないかっ!」
「本当に?」
「ブーケは持ってもらうけどな」

 ぎろり、とにらまれた。さあ、ようやく当初の話題に戻ってきたぞ。

「だってお前、ライオンは花、持てないだろ? うつぶせだから」
「………そうだな」

 あっさり納得しやがったよ。素直だねえ、助かった。

「さてっと、打ち合わせは今夜はここまでにしときますか……おっと、そうだった」

 上着のポケットからかねてより準備してきたブツを取り出した。白い包装紙につつまれ、青いリボンのかかった手のひらに乗るくらいの箱を、まず一つ。

「これ……俺からの結婚プレゼント」

 ディフはぱちぱちとまばたきして、それからレオンの方を振り向いた。
 レオンがゆっくりうなずく。

「……ありがとう」

 骨組みのがっしりした手の中に押し込み、ぎゅっと握ると静かににぎり返された。少しの間そのまま。そして、手を離す。
 レオンから無言の圧力が飛んでくる前に、速やかに。

 しゅるしゅるとサテンの青いリボンがほどかれ、包み紙が開かれる。箱がかぱっと開いて、中からブローチが一つ現れた。
 小指ほどの長さの、ころんと丸い楕円形のブローチ。細い金属の枠にはまった白いエナメルの中に、金色の百合が象眼されている。

「これは?」
「両親の遺品の中に入ってた。誰の物か、どうしてあったのかはわからない。裏に刻まれてるのも、親の名前じゃないし……」

 ディフは注意深くブローチを裏返し、視線を落した。細められたヘーゼルの瞳が、刻まれた手彫りの文字を一文字一文字読み取って行くのがわかった。

「……アニス・ベリンガー、か」
「ああ。俺の持ち物の中じゃ、おそらく一番古い。良かったら使ってくれ」
「something old(古いもの)兼、something borrow(借りたもの)だね」
「まあ、そんなとこで。んでもってこれが……」

 ごそっとズボンのポケットをまさぐり、今度は小さな紙袋を一つ取り出した。

「something blue(青いもの)」

 ディフは受け取り、中味を手のひらに取り出して……ひくっと顔をひきつらせた。

「き、さ、ま」

 おお、久々に聞いた気がするぞ、地獄の番犬の唸り声。

「……けっこー苦労したんだよー。お前さんの太ももにはまるだけのサイズのウェディング用のガーターベルト、探すの。見ろよ、このフリルたっぷりのレース! なかなかいいものだろ?」
「これを俺に着けろと言うか!」
「いーじゃん別に見るのはレオンだけなんだし? ブーケトスがないんだったら、せめてガータートスぐらい……」

 べしっと青いガーターベルトが顔に投げつけられる。

「ブローチだけ借りておく」

 まだ、ほんの少しムッとした顔で、それでも奴は言ってくれた。

「ありがとな……ヒウェル」
「どういたしまして」
「青いものは、もうあるんだ」

 そう言ってディフは奥に行くと、すぐに小さなベルベットの箱を手にして戻ってきた。かぱっと開くと、中にはカフスボタンが二組並んでいる。
 四角い金属の枠の中に透き通った濃い青の石がはまっていた。雲一つなく晴れ渡るカリフォルニアの空の色。透き通った、にごりのない天上の青。

「これ……サファイアか」
「ああ。テキサスから……お袋から送られてきた」
「お袋さん、式には?」

 目を伏せて、首を横に振った。口元に浮かぶ寂しげな笑みが語っている。
『しかたないんだよ』と。

 レオンがディフの肩を抱き、引き寄せて頬にキスをした。
 ったく、こいつは結婚してから周りを気にしなくなったよ、ほんと! むしろ、こっちが気になるっつの。

「親父が来ないって言うからな。必然的にお袋も、兄貴も………」
「そっか。兄さんは何て?」
「ん、電話でおめでとうってな。今時ゲイなんか珍しくもないし」

 ディフはレオンの手を軽く握った。

「お前を泣かせるなよって、言われた」

 どうやら、ジョナサン・マクラウド警部補はなかなか現代的思考の持ち主でいらっしゃるらしい。しかし、さすがにどっちが嫁か、と言うことまでは看破できなかったようだ。

 レオンは何も言わずにまたキスをした。
 今度は額に。
 いかん、いかん。これ以上こいつらと一緒にいたら……あてられちまう。
 早々に退散することに決めた。

「それじゃ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
「おやすみ」

 青いガーターベルトは忘れたフリして置いてきた。
 そりゃ、俺が着けろと言えば怒るだろうが。レオンがリクエストしたら……ねぇ?
  
 
 ※ ※ ※ ※
 
 
 部屋に戻ってから、必要なものを改めて手帳に書き出す。
 エリスおばさんの店へ、花の発注。

 それからぬいぐるみ用のタキシードと………ああ、花嫁用のティアラも探しておかなきゃな。
 約束通り、ドレスは着せないよ。
『ドレス』は、ね。


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