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ローゼンベルク家の食卓

【3-15-2】アレックスがんばる

2008/07/06 18:30 三話十海
 私の名はアレックス・J・オーウェン。
 父祖の地ヨーロッパに居る頃より代々、ローゼンベルク家に付き従ってきた一族の末裔である。
 現在はローゼンベルク家のご嫡男にして唯一の直系跡継ぎ、レオンハルトさまのもとで秘書として働いている。
 レオンさまが法律事務所を設立し、本家には戻らないと決心なさった段階で執事としての職は辞したものの、心の中では今も変わらぬ気持ちでお仕えしている。

 そのレオンさまが、ご結婚なされた。
 
 お相手は高校時代の後輩。性格も真面目で面倒見もいい。私の目から見てもまっすぐで気持ちのいい気性の持ち主だ。体も健康そのもの、料理も上手い。
 何よりレオンさまのことを心から愛している。
 なるほど、確かにディフォレスト・マクラウドは男性だ。結婚も法的な拘束力を持つものではない。あくまで事実婚、結婚証明書も発行されない。しかしそれが何だと言うのだ? 
 無条件の信頼と好意、そして時には母親にも似た深い愛情。あたたかな抱擁、家庭的な料理、そして笑顔。
 レオンさまの人生に欠けていたもの全てを彼は与えてくれる。

 お二人が結ばれることが、何よりの幸せなのだ。
 レオンさまにとっても、マクラウドさまにとっても。

 ……いや、これからは奥様とお呼びするべきなのだろうか……さすがに、それは……あまりに………彼の姿形に、そぐわない。(内面はともかくとして)
 ご本人との協議の結果、これまで通りマクラウドさまとお呼びすることに決めた。

 お二人が指輪を交わしたのは6月の最初の週だった。以来、互いを唯一の伴侶として共に暮らしている。
 レオンさまは私にも相談なさらずご自分でメイデン通りの宝石店に赴き、結婚指輪を買い求められた。部屋いっぱいのマーガレットの花束まで添えて。
 何もかもお一人で準備して、お一人でやり遂げられた。
 少し寂しいような……いや、それだけレオンさまも成長なさったと言うことなのだろう。

 その代わり、オティアさまとシエンさま、そしてマクラウドさまのお引っ越しの際には全面的に差配を任せてくださったので、腕を振るって取り仕切った。

 そして、7月の最初の週。お二人が結婚してから一ヶ月が経とうかと言うある日、レオンさまがおっしゃった。
 お茶の支度でも申し付けるような、さりげない口調で。

「アレックス。結婚式を行いたいんだ」
「結婚式、でございますか?」
「彼がしたいと言うのでね」
「さようでございますか」
「式の全てを任せたい」
「…………かしこまりました」

 何と言う歓び。何と言う光栄。

 しかし私の感性は、このサンフランシスコの解放的な空気には、いささかそぐわない傾向がある。正直、チャペルを手配するかどうか、根本的な部分でまずつまづいてしまった。
 ここはどなたかにアドバイスをいただくべきだろう。
 もっと、この街の気風と流儀を心得た方に。

 
 ※ ※ ※ ※


「ナニ、あいつらの結婚式? OK、まかせとけ。いっくらでもお手伝いいたしましょう!」

 メイリールさまはにやりと笑って片目をつぶり、冗談めかした口調で付け加えた。

「もちろん、ノーギャラでね」
「ありがとうございます」
「最近じゃ、ゲイの結婚式を執り行ってくれるチャペルもあるけど……司祭さんも、場所も、クリスマスん時に行ってる教会とは違うもんな」
「はい。それで、ご相談にあがったのです」
「レストラン借り切って、人前式でやった方がいいんじゃないか」
「人前式……で、ございますか」
「ああ。招待した友人一同を証人にして永遠の愛を誓うんだよ。最近は男女のカップルでもその形式でやる人らもいる」
「なるほど。それは思いつきませんでした」
「それと、席決めるんじゃなくてカジュアルに立食式にした方がいいかもしれない。招待状出した客以外にも、ふらっと予定外の奴が顔出して、おめでとうって言えるように。あと飾り付けはレインボーフラッグを忘れずにな。あいつらの好み聞いたらそれこそ清楚に白と青だけで、なんてことになりかねない!」

 流暢な口調でよどみなく言い切ってから、メイリールさまはふと言葉を区切り、目を伏せた。
 
「……できるだけ沢山の人間に祝って欲しいんだ。知って欲しいんだ。あいつらはお互いに唯一の存在で……もう他の誰にも引き離せない。ディフはレオンだけのもので、レオンはディフだけのものなんだって」

 黙ってうなずき、同意を示す。

「証明してやりたい。安心させてやりたいんだ」

 メイリールさまは目をすがめて空中を睨み、口の端に噛んだ煙草をぎりっと噛んだ。(ご本人の部屋なのだが、私を気づかい火は着けずにいてくださる))

「人の口に戸は立てられない。だったら情報量で勝負だ。どーっと大量の佳い知らせをぶちまけて、あいつらにまとわりつく薄暗い影をぜーんぶ吹き飛ばしちまいたいんだよ、この際!」
「私も……そのように思います」

 おやおや。目を丸くして口をぽかーんと開けておられる。煙草がぽろりと落ちた。
 私が積極的に自分の意見を述べることは滅多に無い。それが執事の勤めであり、本分と心得ている。
 どうやら、珍しくこの方の意表を突くことができたらしい。思わず笑みがにじんだ。ほんの少しだけ。
 
「それでは……スケジュールを取り決めて、店を手配して参ります。また、何かありましたら」
「ああ。いつでもどうぞ! ブラジャーからミサイルまで、なーんでもそろえてみせるぜ。」

 はて?
 ブラジャー?
 ミサイル?

 ガーターベルトならまだわかるのだが。

「おそれながらメイリールさま。どちらも結婚式には、あまり縁の無い物と思われますが」
「いや……その……………ジョークだから、これ。知らない?『特攻野郎Aチーム』」
「あいにくと存じ上げません」
「ああ……そう。そうだよな、うん」


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