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ローゼンベルク家の食卓

【2-10】DefのDは破壊のD

2008/03/13 1:30 二話十海
 ばかでっかい冷凍グリーンピースの看板の下に車を止めて外に出る。

「シエン。どこだ?」

 そっと、支柱の陰から小さな姿が立ち上がる。

 ……いた。

 紫の瞳に涙が盛り上がっている。白い頬にいく筋も、流れた後がある。
 ぎりっと胸の奥が締めつけられる。できるものなら抱きしめてやりたいが、俺はまだそれを許されるほどこの子の近くには行けない。

 せめて、微笑みかける。
 彼の心を埋め尽くす不安がすこしでも軽くなるように。

「……心配すんな。オティアは助け出す。必ずな。………ついでにヒウェルも」


 不安そうな顔でこくんと頷いた。


「レオンが来るまで、ここでで待ってるか? それとも」

 続く言葉は自分でもまともとは思えなかった。
 けれどシエンを助けに行く時、オティアは一緒に来ると言ったのだ。
 立場が逆になった今、彼が同じことを思わないとどうして言える?

「一緒に来るか?」
「……行く…」
「わかった。傍を離れるな」

 やっぱりな。
 ここまでずっと支え合ってきた二人だ。


「お前のことは、俺が守る」

 涙を拭ってやることができないのなら、せめてお前の盾となろう。
 
 うなずくシエンに歩調を合わせて歩き出す。

 轍の刻まれた細い道を歩き、林の中に分け入って行く。じきに灰色の倉庫が見えた。
 ホルスターから銃を引き抜き、セーフティを外す。両手で握り、銃口を下に向けて注意深く進む。

「オティアは……どこだ?」
「あっち」
 
 倉庫の方か。ってことは管理棟にいるのが犯人一味だな。

 さて、どうする。
 拳銃一丁でできることなんかたかが知れてる。こう言う時は……原則、相手の持ち物を最大限に活用する。

 見回すと車が何台か停まっていた。
 いかにもぞんざいな駐車の仕方だ。鼻面の向きがてんてんばらばら。がーっと走ってきて、ロクに確認もせず適当にとめたんだろう。

 ……良い傾向だ。

 ざっと見て、一番でかい車に忍び寄る。
 戦車みたいに頑丈な角張った車体の四輪駆動車――ハマーだ。ついてる、これなら警官時代に何度も運転した。
 さらにラッキーなことに、乗っていた奴はキーをさしたまま、ロックもかけずに降りていた。よほど慌てていたのか、あるいはイラついていたのか。

 乗り込み、後部座席に目をやるとプラスチックの箱がいくつか無造作に置かれている。
 ぞんざいにしめられたフタのすき間から、見なれたものがのぞいていた。

 慎重に開けて取り出す。
 思わず小さく口笛を吹きそうになった。

 暴徒制圧用のスタングレネードだ……直接の殺傷力はないが、ごう音と閃光で食らえば行動不能に陥る。
 何に使うつもりだったんだろう?

 知ったことじゃないが、有る物はありがたく使わせてもらおう。
 一個抜き取り、車を降りる。

「いいか、助手席に乗って、伏せてろ。耳をふさいで、目を閉じているんだ」
「……うん」
「すぐ戻る」

 管理棟に忍び寄った。
 ピンを抜き、3秒数えて中に放り込む。窓ガラスが割れる。ごとりと床に落ちる気配。

 2秒、1秒……

 ジャケットを頭からひっかぶり、地面に突っ伏す。

 ゼロ。

 ごう音とともに夜の暗がりが一瞬、まばゆく照らされる。
 部屋ん中に雷でも落ちたような派手な閃光。ほぼ同時に爆風に窓ガラスがたわみ、内側から粉々に吹き飛ばされる。

 成功。
 跳ね起きるとダッシュしてハマーの運転席に飛び乗った。

「しっかりつかまってろ。行くぞ」

 エンジンスタート。一発でかかる。
 アクセルを踏んで、突っ走る。目標は……倉庫の入り口だ。

「ディフ、シャッター閉まってる!」
「すぐ開く」

 耳障りな悲鳴を挙げて安普請のシャッターがひしゃげて吹っ飛ぶ。
 ハマーの車体には擦り傷がついただけ。
 持ち主が文句を言いそうだがこっちの知ったことじゃない。

 外に飛び出し、ちらっと助手席を見る。
 真っ青な顔をしている。今にも倒れそうだ。

「……ここで待ってろ。すぐもどる。いいね?」
「……や、だ……いく」

 よろめきながら車の外に出てきた。

「……走れるか?」

 
 こくっとうなずく。

「よし……ついてこい」

 薄暗い廊下を走り抜ける。スタングレネードの効果が切れるのと、オティアとヒウェルを救出するのと、どっちが早いか、かなりギリギリだ。
 シエンが気がかりだが、あまりペースを落してもいられない。

 ちらっと後ろを振り返る。
 荒く息をついて、それでも懸命に走ってくる。

「オティアはどこだ?」

 震える指がドアの一つを指さした。
 意外に近い。

「ここで待ってろ…帰りはまた走るんだ。中休みとっとけ。いざとなったら車まで抱えてくぞ」


 返事はない。壁によりかかり、膝に手をついて体まげて、必死で息を整えている。

 問題のドアに近づく。
 チャチな鍵だ。これなら銃を使うまでもない。

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