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ローゼンベルク家の食卓

【2-1-3】★★君を手放すつもりはない

2008/03/13 1:08 二話十海
 震える腕で、力いっぱい抱きしめていた。
 もしかしたら、すがりついていたのかもしれない。

「君があの子を気にしてるのはわかってるんだ。命の恩人だものな」
「……愛してる、レオン…お前がいなきゃ……生きてけない……嘘はないのに……それなのに俺は……」
「無理することはないよ。俺に必要以上に気をつかわなくてもいいんだ、だいたい…君がしたいことを俺が止められるわけがないよ」
「お前は…俺を甘やかしすぎだ……」
「君が俺を嫌いになって、もう二度と顔も見たくないって言うんだったらちょっとは考えるけどね。そうじゃないなら、何も問題ない。それに君の憂い顔も十分堪能したし」


 ディフの腕が滑り降りて、手を握ってきた。にぎり返すのも待たずに自分からキスしてくる。

 ああ、君って人は。
 俺の言葉を聞いていなかったのかい?
 憂い顔を堪能したって…言ったじゃないか。
 それなのにこんなに無防備にキスしたりして。どこまで可愛いんだろうね、まったく。
 
 ここで濃厚なディープキスを仕掛けたりしたら、どんな顔をするのだろう。
 ちらりと浮かんだ悪戯を思いとどまり、キスに応える。あくまで優しく。

 唇が離れると彼はシャツのボタンを外し、ぐいっと無造作に広げ、肌をさらしてきた。
 鎖骨のあたりまで見えるくらいに。

「俺のしたいことを止められないって…言ったよな………お前の……痕、つけてくれ」

 ヘーゼルブラウンの瞳がつやつやと濡れている。
 ともすれば顔をそむけそうになるのを必死で堪えているのだろう。
 うつむき加減に目を細めて、ため息まじりにぽつぽつと言葉をつづる。
 おそらく罪悪感と、ためらいからだろうが。妙に悩ましげに感じられるのはさっき交わしたキスのせいだろうか?

 その顔、他の奴に見せたくないなあ……。

「君が望むなら。いくらでも」

 肌に唇を寄せられただけでため息が漏れる。
 この一年、レオンに惜しみなく愛された体は研ぎすまされて。ほんのかすかな愛撫にさえ応えるようになっていた。
 鎖骨の下あたりを強く吸われる。

「く……あっ」
 
 肌に歯を立てられ、噛まれた。びくっとすくみあがり、反射的に逃げそうになる。
 でも離れたくなかった。必死でしがみついた。

「レオ……ン……」
「俺はけっしてものわかりのいい男じゃない。けどね。君のためなら別だ」

 俺が言えば君はおそらくあの子への想いをあきらめるだろうね。
 でもそんなことで君を苦しめたくはないんだ。

「君が笑っていてくれるならそれが一番いい」

 怯えた気配がしたが、それも一瞬。すぐにディフの手が頭を包み込むように抱きしめてきた。

 彼に対する君の気持ちが、親鳥にも似た保護欲なのか。それとも恋愛感情なのか。正直俺にもよくわからない。
 だが…相手がシエンなら、見える範囲にいる。君と彼とがどの程度親しくなったか、すぐにわかる。

 それに、まだ子どもだ。

 背に回した腕に力を込め、優しい抱擁に体を預けた。ディフの指先が髪に絡みつき、撫でられる。

 俺は君を手放すつもりはないよ。
 何があっても、決して。

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