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ローゼンベルク家の食卓

【2-1-2】★心はいつも自由だよ

2008/03/13 1:06 二話十海
 ここ数日、レオンは胸の奥にチリチリとわずかな引き攣れを抱えていた。
 原因は……わかっている。
 
 双子を引き取って以来、ディフは前にも増してレオンの部屋で過ごす時間が長くなっていた。
 それはそれで歓迎すべき事態なのだが。

 普段は眼光鋭いヘーゼルブラウンの瞳が、双子を見守る時は穏やかな光を宿す。
 そして、ふとした折りに彼がシエンに向ける、やわらかな笑顔。
 それは今までは世界中でただ一人、レオンにだけ捧げられていた表情(かお)だった。

 その事でディフを問いただしたり、まして責める気など毛頭なかった。
 ただ後ろでじっと見ているだけ。静かに。ただ、静かに。
 瞳の奥に憂いと若干の苛立ちの色を潜ませて。


 ディフも恋人の変化を感じ取っていた。
 さっきもシエンに買ってきた冬物を渡しながらふと気配を感じて振り返り、レオンと目が合った。
 しかしすぐについ、とそらされてしまう。

 いたたまれずディフも目をそらす。

 レオンのそばを通りすぎながらぽそりと囁いた。

「後で…俺の部屋に来てくれ」
「気にしなくていいよ」
「…話したい……」
「わかった」

 部屋に呼び出したのはいいものの、いざ二人っきりになると言葉が出てこない。
 言わなければいけないことがあるとわかっているのに、喉がつまり、舌が強ばる。

 思い詰めた表情のディフにレオンが声をかける。

「そんな顔させたいわけじゃなかったんだが…困ったな」

 くしゃっと顔が歪む。やばい、泣きそうだ。奥歯を噛んで懸命に耐えた。

 レオンの手が頬を包み込む。唇が額に触れた。

 …もう、だめだ。

 ぽろりと一粒涙がこぼれる。

「ああ…泣かないで」

 目元にもキスが降ってくる。
 なんで、こんな俺に。
 俺なんかにそんな優しくしてくれるんだ。

 俺はお前を‥‥‥‥‥‥裏切ってるのに。
 
「そんなに……優しくするな……俺には……も……その資格がない……」
「心はいつも自由だよ、ディフ。…俺が君を愛してることにかわりはない」

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