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ローゼンベルク家の食卓

【1-6】この部屋は飯が美味いぞ

2008/03/11 4:40 一話十海
 その後、引き上げたレオンの自宅にて。

「お前、ほんっとーにもう痛くないのか?」

 ヒウェルはためつすがめつディフの肩をのぞきこんだ。
 当人は血のついた服を無造作に脱ぎ、替えのシャツを羽織った所。ちらりと見たが完全に傷は消えていた。
 文字通り、跡形も無く。

「傷、塞いだだけだから……無理はしないで」

 シスコに戻る間、車の中で眠り続けいた『オティア』だったが、マンションに到着するなりぱっちり目を開いて起きあがった。
 まるで誰かが知らせたように。
 そして、双子は手をとって歩き出したのだ。一言も言葉を交わさぬまま、何もかも全て通じ合っているように見えた。

「ふさがってりゃ問題ない、食って寝てりゃすぐ治る」
「お前それレオンの顔見てもう一度言ってみろ」
「……あ」

 レオンが苦笑していた。

「あまり俺の寿命を縮めないでくれ」
「ごめん…子どもが危ないって思ったら…」
「頭のネジすっ飛ばしたんだよな。いつものことだけどさあ。少しは学習しろよなマクラウドくん?」
「貴様に言われたくはない!」

 ぐわっと歯をむき出してヒウェルに唸った後、ディフは一転して少年にやわらかな笑みを向けた。

「……ほんとにありがとな、オティア」

 少年はちょこん、と首をかしげた。

「俺、シエンだよ?」
「え?」
「ええっ?」
「こっちがオティア」
「マジかっ」
「うん」
「わあ、ややこしい」
「えーっと、つまりヒウェルが最初に会ったのがオティアで、後から来た君がシエンってことか?」
「……入れ替わったのか。シエンが仲買い人に連れてかれそうだから」
「俺の知らない間にね」

 オティアは黙って明後日の方を見ている。

「……お前は知ってるような口ぶりだったもんな……オティア?」

 誰にも助けを求めずに。ただ兄弟を守るために体を張ったのか。

 ヒウェルは思わず舌を巻いた。

 ったく、あきれ果てた意地っ張りだぜ……。

 心の中で悪態をつきながらも、なぜか顔がほころぶ。

 彼は知らない。自分では見えるはずもない。
 いつものにやけた薄ら笑いではなく、濁りのない素直な顔でほほ笑んでいることなんか。
 それが、たった一人の十歳近くも年の離れた少年が原因であることも。
 
「さて……二人とも」

 頃合いを見計らってレオンが口を開いた。にこにこと人当たりの良い笑みを浮かべて。

「行くところもないだろうし、警察やFBIの聴取もあるしここにいてくれ。もしかしたら裁判にも出てもらうかもしれないし」
「いいんじゃね? ここセキュリティは万全だし……」
「いいの?」
「…まぁ…シエンもまだ動かせないしな…」
「俺も……まだ聞かせてほしい事あるしな。それにこの部屋は……飯が美味いぞ」
「お前が言うな」

 こうして双子と記者と弁護士と探偵、5人の共同生活が始まった。

 住む場所は微妙にばらばら(同じマンションの中ではあるが)……でも夕食はご一緒に。


(キッドナップ×キンダーハイム/了)

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月梨さん画、ヒウェルとオティア。

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